スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

さっき見た夢

体育館みたいな場所で、大きな布を針で止めながら広げていく作業をしていた。この針というのが布団たたきの先端が尖っているような巨大な物で、これで布を貫いて体育館の床に打ち付けていくのである。それをやっていたら何だか子供がいっぱい集まってきて、一緒に作業しだす。何かこう情操教育的なレクみたいになっていく。
針を打ち終わったら、ロープで針同士を繋いで揺れないようにするのだが、その作業中に大人が何人か来て私を呼んだ。そのとき状況はどうやら「小学校での授業」となっていて、彼らも私も先生のようだった。彼らは子供の採点方法について話していた。ある先生が「教頭の方針いわく、あまり出来不出来の差が激しいとおちこぼれを作ってしまい、自信を損ねさせてしまう。が、能力のある子もきちんと評価できるようにしたい、とのことだ。どうすればいい?」と言うので、私は「それなら達成度を数段階に分け、最初の段階は非常に容易だが、最後の段階は難しくすればいい」と答えた。そんなこんなで布を張り終わったら、いつのまにか折りたたみ椅子が沢山設置されて、ナチスの高官がずらずら入ってきて集会を始めだした。どうやら彼らの中に裏切り者がいて、そいつが人間をゾンビに変えるウィルスをまき散らしてしまったのだがどうすればいいだろう、という話だった。そして裏切り者が誰なのかは私にはなぜか分かり、そいつは窓際に何食わぬ顔で座っていた。あいつこのままやり過ごす気だな、と思ってると、彼の後ろの窓の奥でヒトラーに変装したアメリカ人が踊っていて、それを見たナチスの人たちは怒り狂いピストルをばんばん撃ち、流れ弾で裏切り者は死んだ。どうやらこの体育館は既に米軍に包囲されているらしく、戦争は避けられないようだ。ナチスの人たちは体育館を出て、米軍と激しい戦闘を開始した。しばらく経ってから外へ出てみると、そこらじゅうに温泉が沸いていて、死んだ兵たちがぷかぷか浮いていた。私はそれを踏まないようにしながら廊下を渡り、やがて薄暗く不気味な細い通路に出た。その向こうには、ウィルスに感染してタイラントのようになってしまったポエム君がいた。もう闘うしかない、とお互いに感じ、スローなダンス要素を取り入れた動きをしながら近づいていき、やがて組み付いた。しかしその一連の動きは決まってるように思え、ガチバトルというよりイベント戦だった。そして奇妙な事に、決着がつく前に、温泉の沸いてる廊下を渡っている場面に戻ってしまうのだった。何回かそこでループする。なんかおかしいな、と思っていたら、ダンスで接近するときに照明に不備が起こったらしく、明かりが落ちてしまった。するとポエム君が「NGだな。やり直そう」と言った。そう、これは収録で、いままでの闘いもNGだったのである。しかも今までのNG分はすべてニコニコ動画にアップされており、そのシリーズは既に20番台を数えている。「こんなの誰が見るんだよ」と私は思った。そこで目が覚めた。

そういうことなので、ちょっと千葉に行ってきます。
スポンサーサイト

染めの終わりとハードボイルド・ワンダーランド

布を持って、家を出た。
コンビニで宅配をお願いする。
これで、全てが終わったんだ。
これから、穏やかな日々が始まるんだ。
そう、思おうとした。
でも、心の奥からこみ上げてくる不安を抑える事ができなかった。
手続きが済み、配送料を払うと、僕はコンビニを飛び出して自転車に乗った。
全速力でこいで、部屋へと戻った。

出かける前、僕はヒラリーを見た。
彼女は、ダイニングのテーブルにぐったりと伏していた。
いまにも死にそうなほど、疲れているようだった。
僕は靴を履き、玄関の扉を開けながら、「すぐに戻るから」と、彼女に言った。
「うん」ヒラリーは消え入るような声で言った。
「待ってる」

でも、それが嘘だったと分かるまでに、長い時間は必要なかった。
僕がコンビニに行って、帰ってくる数分の間だった。
僕が部屋に入ると、そこにはもうヒラリーはいなかった。
彼女自身だけでなく、その痕跡すらも残ってなかった。
彼女の靴も、服も、吸った煙草も、何もかも無くなっていた。

やはり…………そうだったのか…………!
ヒラリーは………………俺が…………………………!
染めの苦悩のあまりに作り出した妄想…………!
幻覚…………………………!

うわああああああああああああああああああああっっ!! うわあああああああああ、わあああああああああああああああああああ!! うあっ、うあああああうああああ! うえああ、えああ、あえええええええええ、あえっ、うえあああああうんんあああああああ! ああっ! あっ、あっああああああああああああああああああ! うはああああ! あはああああああひいああ、あは、はあああああああはああああああ、あはあはあああうはうはあああああ、はあああう! んほおおおおおおおおっ! らめぇ




         染物語 ー僕とヒラリーと一瞬の夏ー
                     完







終わりゆく染め

残り、最初に大失敗したジャモさんの分をやり直すのみとなった。

技術的な習得と心の余裕に合わせて、細かい作業が増えていく。ハッチングでトーンを作るのが楽しい。布と愛し合っているようだ。僕は筆を振り、やさしく撫で、布は頬を染める(染料で)。
明日描き終わって、明後日の昼には送って、それで終わりだ。これからもやることは沢山あるけれど、ヒラリーと改めてゆっくり話す時間は取れそうだ。彼女と暮らしはじめたこの二週間、僕は染めで忙しかったし、彼女も日本に慣れるのに精一杯だったろう。もう少しお互いに向き合わないとな、とずっと思っていた。「この作業が終わったら、前に買ったバランタインを開けて、二人で飲もうか」僕は布に向かいながら言った。「そうね」ヒラリーは答えた。声に元気がなかったので彼女の方に目をやると、なんか不透明度30%くらいに薄くなってた。「体調でも悪いのか?」僕は言った。「べつに」ヒラリーはそっけなく言った。
そのまま僕は染めの作業を続けたが、なんだか悪い予感がした。

ボヘミアン

エーニィウェイザウィーンブロー……

今日は驚きました。そんだけ。

殺意の波動に染まった

現在午前四時。覚醒してます。ヒラリーと融合してる勢い。

なぜ染めの作業が辛かったのか分かりましたよ。びびって取り繕ってばかりいたからです。
そして吹っ切れ、もうやりたい事だけやろうと最後の一枚にかかり、現在進行中。ギラギラしてる。
この感じですよ。

煙草

ヒラリーが吸った煙草のすいがらは、口紅で紅くなるが、僕の吸った煙草は、指についてる染料が移って青黒くなる。

意外と奇麗な灰皿。

外で雷が鳴っている。

るみねでるるる

ばててる。

今日練習かと思ってたら曜日を間違えていた。仕方がないのでそのまま渋谷の田中直染料店へ。
染料、ナイロン刷毛、フィキサーを買い足す。やはり水増しは不可能なので5リットル入りのを買った。
せっかく渋谷なので本屋か美術館に行こうかとも思ったが、気力がなくなってやめた。

染五郎の夏。

パターンに幅を増やそうと描き方を変えると、その瞬間に作業量が激しく増えたりして、もう嫌、もう嫌って涙目で、夜中に一人で歌いながらカンタービレ、でも確実に染液を扱えるようにはなってる、とおもったけれど、今日店で見た見本のハンカチがけっこう奇麗なので、ふーんこういうこともできるのか、でも多分薬品をもうちょい買い足さなきゃ無理だな、つって、やってみたいなとは思うが、思うだけ。かわいくなりたいって思うが、思うだけ。世界平和を願うが、願うだけ。ヒラリーは復活しても、なにもしないでテレビを見てるだけ。後ろからそっと抱きしめると、「うぜえ」と言って裏拳で顔を殴られて、僕は泣くだけ。めそめそ。フィキサー一気飲みしたいよ。ひどいプリンだ。そんなこと言ってみただけ。

精神の均衡を保て!

江古田カンタービレ!

武蔵野音大に行って、喋ったり座ったりしてきた。
やりさんにお仕事を快諾してもらう。よろしくお願いします。

その後、やりさんおよびマイシスターと共に飯を食ったのだが、その時の禅問答を通じて、私が「少女になりたい」「かわいくなりたい」と発言するのは欺瞞だと悟り、今後そういう事を言うのはやめようとしみじみ思った。ちなみにマイシスターは「男になりたい」と言ってた。血縁だと思った。

あとトモチャンから「フィキサー食べちゃ駄目! 劇薬だ! アナーキーインザU.K.!!」とお叱りを受けた。25歳にもなってこういう叱られ方をする人生を想像してほしい。うるるるるっ。

帰ったら、ヒラリーが玄関先で固まってた。恐らくカブトムシとの闘いに負けたのだと思われる。仕方がないのでキッチンに運び込む。復活には12時間かかる。

こわい

筆が溶けました。

フィキサーは注意書きに「ナイロン刷毛で塗ってね!」って書いてあったのだが、別にいいじゃんと思って普通の軟毛刷毛を使った。
塗り終わった後、布を流しで洗い、鍋で沸かした湯をぶっかけ、刷毛も掃除しようと思ったら、毛先からブヨブヨちぎれていった。
叫びましたよ。

これほど強力なものとは。
私は材料は味を見ておく事もあり(リアル岸部露伴)、このフィキサーも買った時に舐めてみたのだが、激しい刺激があり吐き出した。これは口に入れるのはもちろん、肌に付けるのも望ましくないと分かったが、それ以上に知らないものは口に入れちゃいけないという幼稚園レベルの勉強をした。
カドミウム絵具すら食べても実は平気という、油彩技法の超絶安全性は一般的ではなかった。
でも筆溶かすほどとは思ってなかったの。

こわいよ。

ヒラリーは「煙草買ってくる」と行って出たまま、帰ってこない。多分カブトムシを見つけて興奮したりしてるんだろう。

現実を正しく認識する

遠雷が多い。昨日も空が光ってたが、今日は稲妻をはっきり目視できるほどだった。
ヒラリーは雷が怖いようで、布の繊維の隙間に隠れてしまった。
私は今日も染める。






感動はたやすく、ネオ癒しなり難し。

夢まで染まる

「なんだ、定着液余裕で足りるじゃん!」っていう夢を見た。
現実は、ボトル4本くらい買い足さないといけない。

地獄灼熱走行

ランニングしてきた。糖質切れないように事前に菓子パン食って、ペースに気をつけるも、暑さと疲労でめちゃめちゃきつい。慎重にランナーズハイを待つが喉が渇く。通りかかった小さな公園の水飲み場で飲んで浴びてしてたら、そのまま立てなくなった。座ったまま立ちくらみ、血流が滞ってくるぶしの下に血が溜まる。呼吸はいくらしてもしてる気にならず、このままでは気持ちが折れる、と無理矢理立ち上がって歩いたら膝がガクガクし、漫画みたいにふらふらになり、この暑さなのに悪寒がしてくる。でも死の恐怖とまでは行かずにほどよかったので、とっても楽しかった。こんな楽しい事をなぜみんな避けて通ろうとするのか理解に苦しむ。
そんで、うちだけー君主催の「ラウンジ」見てきたが、けっこう全体的に苦労してたな。残り二日、よくしていってください。

家に帰ったら、ヒラリーは晩ご飯をつくっていてくれなかった。しかたがないので自分で作る。
染め、後二日で終わらせたい。

そそそそそそそ!? そー!

今日はもう嫌になってきたので、走りに行って、後輩の芝居見る。そしてヒラリーが作ったばんごはん食べるんだい。

some.gif


漬け込んで絞った状態で干し、偶発的にできた模様を基に描き加える。全体的にこういう感じになる。
これ以上の事はできないので、求めないでください。


somene.gif


自分の服にはネコちゃんを描いてみた。やると思っただろ。やるに決まってるべさ。

しかしこうして見ると、脳の中のファイン部分と少女部分が喧嘩しまくってるな。

そんません

徹夜して、やきそば作って、コーヒーを飲んで、うつろな気分で染の残り作業量を計算する。手法を整理してから、だいぶ進みはよくなったが、それでも描き込みはすべきところはしなければならない。服になって着た時にどれほど印象が変わるかを想定しなければならないので、一枚の布の状態でバランス取っても意味なかったりする。この仕事、つくづく平面屋さんには向いてないよ。でもタマネギ染めとかならしてみたいな。手ぬぐいにポケモン描いて。

昼まで染めやって、体力が残ってたら、猛暑ハーフマラソンに備えてランニングでもしようか。今のところ参加を名乗り出てくれたのは吉川君一人だけなのだが。みんなどういうことなんだよ。そんなに生に執着したいのかよ。何度か死にかけるのはいい経験だぞ。「というわけで、出てみない?」僕はヒラリーに言った。まだベッドで寝ているヒラリーは眠そうに目をこすりながら「でるわけないべ」と言って布団にもぐりこんだ。僕はがっくりとうなだれた。しかたがないから、染めの作業に戻ろうと思う。コーヒーを入れ、ヒラリーの分のマグカップにラップをしてテーブルに置いてから、僕はアトリエに戻った。

あなたの色に染められて

少量を筆で置くと、縦糸で止まる。大量をにじませるように置くと、縦糸を通り越して奥の横糸で溜まる。そのグラデーションの質の違いを観察するうち、接着剤のない世界では生地が多くを支配していることに気付く。非常に単純なことだが気付くのに数日かかった。でも頭ではなく、腕が気付いてくれたからね。だんだんわかってきたよ。材料から自由な技法は存在せず、したがって物性はいつも道を教えてくれる。だから、今目の前で何が起こってるのかを理解できているかが重要ですよ。
という話をヒラリーにしたら、彼女は米を研ぎながら鼻歌を歌いはじめた。「ひとめぼれのホームページを見たことある? あのセンスは異常だ。神だよ。狂ってるよ。染めもいいけどお米のホームページめぐりもいいよ」彼女は言った。「君と暮らしはじめて数日経つけど、まともに会話ができた記憶がないよ」僕は言った。「わざとやってるだろ?」するとヒラリーは米を流しにぶち撒け、「あなたのためにたまごかけご飯をマスターしようってがんばってたのに! ひどい! うるるーん」「たまごかけご飯なんて、米を炊いて卵を乗せるだけだろ!」僕がそう反論すると、ヒラリーの額が縦にばっくりと割れ、第三の目がギョロリと飛び出した。「お前は世界が狭いな」ヒラリーの第三の目は言った。「たまごかけご飯は、卵とご飯があればいい……その見識の浅さで満足しているお前の心が、腕を鈍らせるのだ!」そして流しにまかれた米をひとつかみ取ると、それを一瞬で炊き上げて茶碗に盛った。僕「こ……これは伝説の中にしか存在しないはずの技法『早炊き』!! 1000年間失われていた技をこんなにたやすく復活させてみせるなんて……」ヒラリー「こんなものは序章に過ぎない。さあ、卵を乗せよう」僕「それはアクアファーム秩父オリジナルの最高級卵『輝』!! アメリカから来たばかりの君がどうしてそんなものを……!」ヒラリー「さらにこれに牡蠣醤油をたらし……仕上げに、これを入れる」僕「ゴマアブラだと! 一見シンプルだが、卵のまろみをブーストさせ香りを引き立てるベストマッチ……いや、この油、普通とは少し違う……」ヒラリー「その正体、舌で見極めてみるがいい」僕「……これは! ごく僅かながら、にんにくの風味がする! 500ccに1/2かけの比率で漬け込み、こっそりと香りを移していたのか! さらに飲み下したあとに喉の奥からかすかに感じられるさわやかな風……白胡椒だ! それもパウダーではない、粒のままにんにくと同時に漬け込んでいたのか! この清涼感が、ともすればもったりとしがちな味を引き締めている!」ヒラリー「それだけではない、ご飯をよく見直してみろ」僕「大麦が混じっている! そうか、米だけでは受け止めきれない生卵のコク、これだけマッチしていた理由が今分かった!」ヒラリー「気付いたのはそれで全てか?」僕「よく見たらこの茶碗はウェッジウッドのものだ!」ヒラリー「もっと注意深く探してみるんだ」僕「食卓に牛タンの炭火焼きとネギ塩スープ、きゅうりの浅漬けがある! 究極の組み合わせだ!」ヒラリー「一番気付いてほしいこと、まだ分からないの?」

脳細胞めざめ

目が覚めたら巨大なオバマ大統領になっていた。
なっていなかった。
現実はいつも条理。
「若返りたい」ヒラリーは僕の煎れた緑茶を飲みながら言った。「二十代の頃のすばらしい肉体をもういちど取り戻して、青春を謳歌したい」
僕は無視して染めを続ける。

三十分後、一服しようと思いアトリエにしてる部屋を出て、キッチンに行ったら、ヒラリーがさっきより十歳は若くなっていた。「何があった?」僕は驚いて言った。「話しかけるな!」ヒラリーは叫んだ。「今のところとてもいい感じなんだ! 神は存在する!」彼女の体からは漆黒の波動が迸り出ていて、すぐ側に置かれていた鍋やフライパンが急速に錆びていき、さいばしは腐敗している。「ここで黒ミサするなよ!」僕が十字架をヒラリーに突きつけると、彼女は白目を剥いて痙攣し、口から緑色の液体を噴き出しながら倒れた。

その一時間後、一服しようと思ってキッチンに行ったら、いつのまにか復活したヒラリーがさらに20歳ほど若返っていた。僕は恐くなり、掃除機を投げつけて彼女を気絶させた。

その30分後、一服しようと思ってキッチンに行ったら、さらに10歳は若返ったヒラリーがニコニコ動画でガチムチパンツレスリングを見ていた。もう僕とあまり変らない年か、ひょっとすると若くなっていた。「格闘技はいいな! 肉体言語こそグローバルだよ! 俺と勝負しろ!」彼女は言った。



僕と彼女は組み合い、お互いにジーンズを破りあった。最後に僕が先に、ヒラリーのパンツを破った。僕の勝ちだ。

その一時間後、ヒラリーは若返りを極め、ひとつの細胞にまで戻っていた。




めそ?

ちょっと分かってきたぜ。でも染料と定着剤が明らかに足りないぜ。もう一回渋谷に行かなきゃだぜ。あとそろそろ寝たいぜ。ぜ? あっゴミ出さなきゃだぜ。ヒラリーに頼む。ヒラリーを頼む。ヒラリーで頼む。ヒラリーよ頼む。頼む、寝かせてくれよヒラリー。ふらり。

めそめそっ

面相筆でハッチングし、布の織り目に切り込むように染料を置いていけばコントロールされたグラデーションを作れることが分かった。しかしそれは、「根気よく植林すれば、サハラ砂漠を森に戻せる」と言うのと同じようなものだ。クロノトリガー。

コペルニクス的な何かがもっと欲しい。しかし手持ちの知識のほぼ全てが使用不能なので、打開策が見えない。
ひらめけ。ひらひら。ヒラリー。ヒラリーかわりにやってくれないかな。アメリカから来てくれないかな。「政治は飽きた。これからは染めをやって余生を送る」そう言って彼女は僕の部屋に押し掛けた。そして奇妙な共同生活が始まる。朝食のとき、僕の作ったたまごかけごはんを見てヒラリーは「なんだこれは。こんなグロテスクな食べ物はアメリカに存在しない。アメリカに存在しないものは通用しない。たとえここがあなたの部屋で、私が客だったとしてもだ」とぷんぷん怒りだす。そして夜には、風呂上がりにバスタオル一枚の姿で平然と歩き回る。僕は「服くらい着ろよ!」と言うが、彼女は「これがアメリカンスタンダードや! ワイは道頓堀最強! 文句があるんならオバマ大統領に言いなはれ!」と逆切れ、僕は堪忍袋の緒が切れて彼女をはり倒す。「あーれー! ドメスティックバイオレンス! 訴訟だ! あなたの今後の人生を私の好きな色に染めてやる!」そして頬をぽっと染めて、「どうして私の気持ちに気付いてくれないの?」と言う。その日、僕とヒラリーは結ばれた。

翌朝僕が起きると、短い置き手紙だけを残して彼女はいなくなっていた。きっと、マンハッタンの風が吹かないところでは彼女は生きていけないんだろう。肝心な染めの作業は1ピクセルも進んでなかった。


昨日気まぐれでネット恋愛小説を読んでみたのだが、なんかこういう感じでした。

そめにっき

現象をうまく使った柄を作ってからの描画なら、もしかしたらいけるかもしれない。
というかもう、それしかない。
逆境に学べ。

最終鬼畜染めフロオーケ・S(しんじゃう)

服三着分というのは思ったより面積が広く、こんなの筆や刷毛で塗ってたら出来上がる前に寿命がつきちゃう、と思い、風呂桶に染料を投入して、布を沈め、まず均一に染めてしまおうとす。

水かさはせいぜい数センチだが、十分大量に感じられる。量が多いとなんかグロい。
布をじゃぼじゃぼ漬けて、絞って、ベランダで干す。
いいのかこれで。誰かお助け。

IMGP1581.gif

そして気がついたら、手も染まってた。

お……お出かけできねぇ………

夏の始まりと俺の終わり

夕方になって少し涼しくなったのを見計らって、チャリでぶらぶらしようと思ってタイヤに空気を入れたら、パンクした。
近所の自転車屋は筋者がけっこう集まる場所らしく、行くと必ず常連が一人は来ていて、店主とマニアックな話をしている。そこにパンクを直しに行くのだが、いきさつを話したら、店主はチューブの傷を見ながらいぶかしむ。「そういう裂け方じゃないんだけどね……! 謎だ……! 多分元々ガラスか何かが刺さっていたのか……! 世の中は謎でいっぱいだ……!」そして店主、手際よくチューブの穴を塞いだ後、タイヤをさすりさすりしながら穴を発見する。「兄ちゃん残念だったね…! これはタイヤ交換しないと駄目だよ……! 4900円かかっちゃうよ……! いいのかい……?」自転車がないと日常がまともに送れない多摩地区にあって金が惜しいとは言えず、私はかわいいふりしながらお金を払う。そして最近思うのだが、「恥ずかしい」という感情はとても大切なんじゃないかと。これは多分、かわいくなるのには必須である。しかるに、加齢とともに恥ずかしいという感情は失われていって、だからこそかわいくなりたいと言ってはばかることもないのだろうと思い至るのですが、これはつまり詰んでいる。終わった。しかし人間は、現実から目をそらすことができるので、気にしない。回田は今日も平和だし、私はだんだんかわいい。そして気を取り直して疾走、八坂や八雲の神社を通り過ぎたのだけれど、夏祭りやってるね。いいねお祭り。平塚を思い出す。鶴見に居た頃も、曹洞宗の本山が近くにあったので祭りをやっていたけれど、やっぱり祭りは平塚がいい。そんなノスタルジー。あと浴衣を着た女の子はかわいい。勝てない。家に帰ったら染めの作業が待っていて、とりあえず的にエスキースを取ったりするのだけど、サイズが決まってないキャンバスに構図を取るようなものなので、これだと思うイメージを定着させる段取りが一向に思いつかない。うぬぬ。プレーリードッグに変身してやりすごしたい。しかし不可能なので、踊る。虚しい。



小金井なやみ相談所3

18歳 高校生の方から

子供の頃、動物園でカンガルーに蹴られてから、カンガルーが大の苦手です。ずっとカンガルーには関わらないように生きてきたのですが、様々な事情で、ここにきてカンガルーと直面することになってしまいました。ひとつには、僕は父から日本拳法を学んでいるのですが、カンガルーが嫌いな奴には道場をつがせないと最近よく口にするようになったのです。父は動物が好きで、型稽古の際によく動物にたとえた言い方をします。そして先日から始まった奥義の練習で、父は「カンガルーかわいいよーっ! 大好きカンガルー!」と叫びながらのたうち回りました。父いわくそれが奥義の初動らしいのですが、僕はぞっとしてしまい、その場を走り去ってしまいました。屋外での稽古だったので、一人で続けていた父はかけつけた警官に職務質問され、散々な目にあったとあとで怒っていました。僕は謝って、道場を継ぐにしても奥義は勘弁してほしいと言ったのですが、「笑止! その無備を攻め、その不意に出ず。これ兵家の勢、先には伝うべからざるなり!」と殴られました。そういうことがあって、僕はやはり道場は継がずに大学に行こうと、その時は思いました。僕は成績がわりあいよかったので、三年生になって志望校別のクラス分けがあった時、国立理系コースに進もうと思ってました。しかし、ここで第二の問題に直面しました。希望クラスを記すプリントが配られたのですが、そこには「国立文系 私立文系 私立理系 医学部 カンガルー」と書かれていて、国立理系クラスがなかったのです。どうしたことかと思い、普段からよく話している化学の先生に相談に行きました。どうしても国立理系に行きたいのだがどうすればいいかと質問すると、先生は「カンガルーでいいんじゃない?」とこともなげに言います。僕は青ざめて、カンガルーだけは絶対に嫌だ、そうするくらいだったら文転する、と叫びました。先生は、普段はまじめな僕が取り乱す様子を見て、ひどくあわてました。「何があったのか知らないが、今日は帰っていいよ、また明日、落ち着いて話そう」と言ってくれたので、僕は早退することにしました。ふらふらになりながらも荷物を取りに教室に戻ったら、隣の席のAさんが心配そうに話しかけてきました。「大丈夫? 今日、映画見に行くのやめる?」僕とAさんは幼なじみで、どちらの家庭も映画に熱心で、子供の頃はよくお互いの家族みんなとで映画を見に行きました。その習慣はいつのまにか無くなってしまいましたが、高校生になってから、ある日彼女から僕に電話がかかってきました。「久しぶりに、映画を見ない?」彼女は軽くそう言いました。僕は少し驚きましたが、冷静なふりをして、いいよ、と答えました。それからときどき、僕はAさんと一緒に映画を見に行くようになりました。彼女から誘ってくることの方が多かったけれど、僕から誘うこともありました。映画を見た帰り道、二人で感想を言い合いながら盛り上がるのは楽しかったし、別れ際にはなんだか胸がせつなくなるような気がしました。でも、向こうはどう思ってるのだろう。もしかしたら、ただの映画友達と思ってるだけなのかもしれない。彼女に一歩近づこうとすると、逆に距離は離れるのかもしれない。そう考えると恐くて、僕は気付いたら今の関係が壊れないように必死になっていました。そんな感じなのですが、僕はAさんに「いや、ちょっと気分が悪くなっただけだから、夕方には良くなると思う。心配かけて悪いな」と言いました。「ところで、進級するクラスとかもう決めてる?」なんとなく、そう聞いてみました。「んーとね、カンガルーかな」彼女は言いました。僕は全身の筋肉がこわばるのを感じました。Aさんは僕の顔を見てぽかんとしています。多分、恐ろしい表情をしていたのだと思います。「どうしたの?」彼女は聞きました。「いや……あ、そうなんだ……」僕はやっとのことでそう言いました。「○○(僕の名字)はどれにするの?」そう言われて、僕はとっさに「カンガルー以外」と言ってしまいました。そんな言い方ないだろう、と思った時にはもう、Aさんの少しとまどった顔がありました。僕はあわてて、今はちょっと頭が混乱してること、進路は全体的に考え中なことなどを捲し立てましたが、Aさんは「変なの」と言って、机の上に開かれていた教科書に目をやってしまいました。僕はそそくさと荷物を抱えて立ち去り、みじめな気持ちで帰路につきました。家に帰って、しばらく横になっていたら、体調はやや回復してきました。夕方になり、待ち合わせの時間が近くなってきて、僕は私服に着替えて家を出ようとしました。が、玄関には父が立ちはだかっていました。「話がある」父は言いました。「道場のことならもういいよ、俺、大学に行くよ。今急いでるんだ、また後で」僕はそう言って横をすり抜けましたが、後ろから肩をつかまれました。「大事な話なんだ! 聞け!」「よせよ! 今気分よくないんだよ、かまわないでくれ!」「力づくででも止めてみせる!」そして、父は奥義の構えを取りました。「カンガルーかわいーっ!」父親は叫んで、のたうち回りはじめました。私は、耳にあの単語が聞こえた瞬間に全身の血が逆流し、脳の命令よりも早く体が動き、父の頭に正拳直突きを放ってました。ゴン、という大きな音がして、父はぐったりとしました。僕は心にみじんの余裕もなくなって、もう待ち合わせ場所に向かって走る意外のことが思いつけませんでした。時間より、三分は早く着いたと思います。でもAはもうそこにいて、僕を待ってました。僕はなんとか平静をとりつくろって笑顔で挨拶し、一緒に映画館に向かいました。見た映画のタイトルは『考える』でした。エル・カンガというスペイン人が主人公で、最初の五分はカンガが陽気な友達と一緒に飛び跳ねたり、蹴りあったりするような内容でした。その後どうなったかは分かりません。僕は目を固く閉じ、脂汗を流しながら二時間耐えていました。しかし映画は、どういうことなのか「Kanga loo!(カンガ讃歌!)」という決め台詞が使い回され、何度も叫ばれ、その度に僕は動悸がして息がつまります。隣に座ったAさんは大笑いしていたので、多分コメディ映画だったと思われますが、僕にはどんなシリアスドラマより重くのしかかってきていました。映画はやがて終わり、僕はぐったりとして映画館から出ました。「好みじゃなかった?」Aさんは僕を見て言いました。「いや、面白かったけど……席かな。席がすごく座りづらくて疲れた。多分壊れてたな、俺の席」僕はそう言い訳しました。でも、僕が無理をしてるのはAさんには伝わってしまったのでしょう、なんとなく気まずいまま、二人で帰り道を歩いていました。僕たちの家のある辺りは静かな住宅地で、夜はひっそりと寂しく、通行人とすれ違うこともほとんどありませんでした。いつも僕は、二人で映画を見た帰りには、いったん僕の家を通り過ぎてAさんの家まで送ることにしてました。たいして離れてはいないし、夜道を一人で歩かせるのも危ないからです。というか、普段は映画の話をしているうちに、自然に自分の家を通過してAさんの家の前まで来てしまうのです。でもこの日は、熱中する会話もないまま、なんとなく通り過ぎていきました。まるで、今までがそうだったからと言わんばかりの消極的なものです。夜は、いつもより暗いように感じられました。「なんか無理してない?」Aさんはふいにそう言いました。「いっつも思うんだけどさ、○○(僕の名字)の映画の趣味って分かりづらいんだよね。合わせてる感じがして」彼女は前を向いたまま独り言のように呟き、少し怒ったようにも見えました。「いや、そんなことは……」僕が言おうとすると「ほら、あやふやなこと言って」と、遮りました。「どう思ってるのかぜんぜん分からないよ」そして、わずかにうつむき、「………カンガルーなのか、嫌いなのか、はっきり言えばいいじゃん」と言いました。
僕の脳の中の何かが切れました。気付いたら僕は、わけのわからない言葉を彼女に向かってわめき散らしていました。「もう沢山だ! もう限界だ! これ以上はやめてくれ! そんな言葉、二度と聞きたくない! 永遠に縁のない生活を送りたいね! これっきりだよ!」そして、全力疾走で走り去りました。最後の瞬間、彼女の目が涙で潤んでいたのが見えた気がしました。
僕は自分の部屋に戻ってから、わけもわからずベッドに飛び込み、日本拳法で枕を殴り、ふとん相手に逆十字固めを繰り出し、やがて疲れてうつぶせに寝転びました。時間が非常にゆっくりに感じられ、自分が生きてるのかどうかすら分からなくなりました。どれだけ経った頃か、廊下の階段がミシミシと音を立て、誰かが上がってきて、続けて部屋のドアが開きました。父でした。「息子よ。今一度問おう。お前はどこに向かっているのだ」僕は黙っていました。僕は、道場を継ぐ器でもなければ、進学先もきめられず、おまけに………父の問いに答えられず、そのままうつぶせになっていました。「……答えられぬなら、これに出るがいい」父は僕の横に一枚のビラを投げ、僕はむっくり起き上がってそれを見ました。それは、明日行われる、18歳最強王者決定戦のものでした。「父さん、俺、もう格闘技は……」「いいから出ろ」父は譲りません。この王者決定戦は、ボクシングを原型にしたルールで行われ、「二人の男がリングに入り、一人だけ出てくる」、文字通りの決戦でした。話が済むと父親は部屋を出て、私は窓の外の星をぼーっと眺めながら、考えていました。こんな自分は、こういう場所で散るのが似合っているのかもしれないな。せめて子供の頃から父に叩き込まれた日本拳法を存分に使って、思い残すところもなく……しかし、僕はそう考えながらも、もしできるのなら、Aさんにお詫びをする時間がほしいと思っていました。でも、あんなことを言ってしまった自分が、今さら何を言う資格があるのだろうかと、静かに諦めていきました。
日はのぼり、大会は始まり、僕は選手控え室に入ってバンテージを巻いていました。そこに一人、近づいてくる選手がいました。前年度の17歳最強王者のボブでした。「HAHAHA、カラテボーイ、お祈りは済ませたか? オシメの用意もできてるかい?」「日本拳法と空手は違う」僕はムッとして答えました。ボブの前年度の試合は、客席から見ていました。非常に強い選手でしたが、始まる前から気持ち負けしていられません。僕とボブの間に火花が散りました。「決勝戦を楽しみにしているぜ、ベイビー」ボブはそう言って立ち去りました。僕は静かにバンテージを巻き終えると、自分の拳をじっと見ました。そこにはまだ答えは見えませんでした。
試合は進んでいきました。大勢いた選手はトーナメントが進むにつれ倒れていき、あっというまに減っていきます。幸なことに、僕はその中に残っていました。この大会の進めるところまでが、僕の限界だと最初に決めていたので、気合いだけは誰にも負けないつもりで挑んでいきました。そして、私は顔も体中も腫れ上がりながら、準決勝での相手に、最後にはアッパーカットを決め、マットへと沈めました。ゴングが鳴り、私の両手は自然と天に突き上げられました。会場は割れんばかりの拍手喝采です。しかし、次の瞬間には、胸には虚しさしか残っていませんでした。
私がリングを降りると、すぐに準決勝2試合目が行われました。始まって一分もせずに、ボブの強烈なコークスクリューが対戦者の顔をはじき跳ばしました。対戦者は膝の力が抜けるより先に頭から前のめりに倒れ、レフェリーはカウントせずに試合を止めました。ボブが負ってきた傷は僕よりずっと浅く、決勝戦への体力を十分に残していました。僕はつい、最期にふさわしい相手だ、と思ってしまい、頭を振って気を取り直しました。決勝戦までは30分の休憩をはさんだのち、まもなく行われます。
「ここからは、お前一人で行くんだ」急に、今までセコンドを務めていた父がそう言いました。「どういうこと?」僕は聞きましたが、父は黙って僕の前から姿を消しました。
時間になりました。実況者によって僕の名前が叫ばれ、赤コーナーに登りました。僕はコーナーパッドにもたれながら、青コーナーの向こうの花道を見据え、ボブを待ちました。
やがて、ゲートの奥、逆光の中から影が現れました。しかし、それはどこかおかしかった。影がこちらに歩み寄って、会場の明かりの下に姿が見えると、その姿はボブではなかったのです。ボブは、その男の肩に担がれていました。ボロクズのように成り果てたボブが。
「ボブは殺った」男は言い、担いでいたボブを脇に投げ捨てると、ジャンプしてリングに上がりました。
そいつは、カンガルーでした。
「待ってたぜ。この瞬間を」カンガルーは両手にはめたグローブを揺らしながら、僕を見てニヤリと笑いました。僕は足がガクガク震えるのを止めることができませんでした。「いったい、どういうことなんだ……」呻くようにそう言うのがやっとでした。「リングに上げてくれて感謝してるぜ、おっさん……」カンガルーは彼のセコンドに言いました。「ああ……いずれはこうなる運命だったのだからな……」そのセコンドは、父でした。「父さん! なぜなんだ!」僕は叫びました。しかし父は表情を変えず、僕を睨みつけるばかりです。カンガルーは軽く飛び跳ねながら、しかし目には重い憎悪の念を持っていました。「やっと……この恨み、晴らす時が来た」カンガルーは言いました。「……まさか、お前、あの時の!?」僕は驚きました。「やっと気付いたか?」カンガルーは言います。僕はかぶりを振りました。「何言ってるんだよ、恨むのはこっちの方だ! お前に蹴られて以来、僕はカンガルーがてんでダメになってしまったんだ! それで色々あって、もう散々なんだよ!」そう言い返しますが、カンガルーは額に皺を寄せて、まがまがしく目をぎらつかせました。「貴様は誤解している……」カンガルーは言いました。「あの時俺は、尻尾を踏まれて、おどろいて反射的に蹴り跳ばしたのさ。お前が先に手を出したんだよ。それなのに……子供を蹴ったカンガルー、暴力カンガルーと呼ばれた俺は、動物園を追放され、自分の力しか頼れないカンガルー生を強いられてきたんだ……だが、それでもいいと思っていた。この力、最後にはお前への復讐に使えるのならな!!」
ゴングが鳴った。「そんな……馬鹿な……」僕は手に力が入らないのを感じました。足の震えはまだ止まりません。カンガルーはステップを駆使しながら、グローブを振りました。モーションの見えないジャブです。私の顔から乾いた鋭い音が鳴り、目に電光が走りました。反射的にガードを上げましたが、二発目のジャブが貫通して再び食らいました。およそ0,3秒の間の出来事です。私は後ろによろめき、ロープに体重が移りました。辛うじて目に映ったカンガルーは、かすかに右の肩を溜めていました。次の瞬間には、ストレートが来る。「あれを避けないと、死ぬ」私は身をよじり、右ストレートが来ると同時に大きく体を傾かせ、マットに転がりました。レフェリーが割って入り、僕とカンガルーはコーナーまで戻されました。呑気な観客はヤジを飛ばします。突然の出来事と、カンガルーのとてつもない強さに僕は混乱していました。カンガルーの復讐の瞳はめらめらとたぎり、怖じ気づきそうになります。僕は、試合再開までに与えられたほんの数秒の空白時間で、気持ちを整理しようとしました。今はいつだ? 闘いの時だ。握られるのは何だ? 拳だ。何を攫む? 
「ボックス!」審判が続行を促した。カンガルーは一足飛びで至近距離まで詰めてきて、大きく体を沈めると、右のガゼルパンチを放った。体勢から、ボディを狙っているのが予測できた。僕は両肘を下げ、それを受けた。体が斜め上に浮いた。激しい衝撃で腕がびりびりと痺れる。次―肝臓狙いのブロー。肘を下げ続け、頭を隠すように体勢を低く。続くボディブロー。ガードが下がる。ストレートが来るのが分かった。ガードを上げる。弾かれた自分のグローブが頭に当たり、体軸が揺れる。大振りのフックが来る。
今だ。
ガンと踏み込み、正拳直突きを打つ。拳がカンガルーの右胸に突き刺さる。肺を押し絞られたカンガルーは、がっ、と口から息を漏らし、額には血管が浮かぶ。
効いている。
なら勝ち目はある。
顎を狙い、斜めから二発目の直突きを撃つ。躱される。ジャブが飛んでくる。奥歯から血が出るほど顎を噛み締めて、耐える。次押し負けたら後がない。前に出ろ。前に出るんだ。前に……
カンガルーの右ストレートが、僕の顔面に入った。一瞬で光も音も消えた。
混沌の中にゆらりと落ちていき、背中に鈍い振動を感じた。

しばらくは、何も分からなかった。
やがて、まず耳鳴りが引いていき、視覚がもどってきた。ただ、重力の感覚がまったくなかった。
地面は柔らかく、暖かかった。
まるで芝生のようだった。
懐かしい臭いがした。動物の糞の臭いだ。
空が見える。
カンガルーが立っている。
それは、子供の頃、カンガルーに蹴り飛ばされたときの記憶だった。
一瞬だけ、静かだった。
恐ろしかった。
無力さに絶望を感じた。
どうすればいいのかさえ分からなかった。
空は高かった。

父は、僕に拳法を教えはじめた。

レフェリーの声が聞こえた。カウントはいつのまにかフォーを数えられていた。
天井のライトが見え、観客の騒音が聞こえ、カンガルーの姿が見えた。
ロープに腕をかけて、体を起こそうとした。焦点が定まらない。目が回り、風景がまだ歪んでいる。風景がまだ……
カウントはセブンだった。全身の血が煮えるような気がした。膝を浮かし、立ち上がり、ロープから手を離す。レフェリーが近寄ってきて意思確認をした。「できる」と僕は言った。
試合再開の直前、父を一瞬見た。腕組みをした父は、表情を変えてなかった。だが僕は、父の手につよく力が入ってるのを見逃さなかった。
現実の感覚が蘇るとともに、眠りから覚めたような明晰さが生まれてくるのを感じた。
カンガルーがステップを絶やさずに接近してくる。僕の足はまだ震えていた。だけど、それはさっきのパンチが効いてたからだった。恐怖は感じなくなっていた。あの、蹴られた時にかかった魔法を、奴自身がすばらしいパンチで解いてくれたのだった。
カンガルーのジャブが来た。わずかだが、見えた、体を後ろに反らす。こちらもジャブを出して牽制する。まだ足がきかず、腰が入らない。カンガルーが密着するほど詰めてきて、ボディブローを連発する。だが、先ほどに比べると威力が落ちていた。疲労だ。絶対に休む瞬間がある、と僕は思った。僕はガードを下げ、頭部狙いのパンチを誘った。打ち下しの右が来た。上半身を大きくひねって躱すと、カンガルーは少し大きめの呼吸を取った。
僕は動いていた。どの軌道で拳が移りゆくのかが分かり、どう動けばいいのかも分かった。何かが示してくれたかのような軌跡を、丁寧になぞるようだった。僕の拳は、最も効率的で、最も合理的なモーションで動き、カンガルーの頭に吸い込まれるように伸びていった。これが奥義だったんだ、と僕は直観した。のたうち回っていたのは父ではなく、自分だったのだ。
カンガルーの頭がガクンと揺れて、うずくまるように倒れた。会場が沸き返った。カンガルーはすぐに腕を立て、起き上がろうとするが、激しく震えている。レフェリーがカウントを取りはじめた。僕はふしぎと、カンガルーが立ってくれることを望んでいた。まだ終わる闘いではなかった。今ようやく、同じ土俵に立ったのだ。
父はちゃんと奥義を見せてくれていたし、進路のプリントにも本当は国立理系と書かれてたし、Aさんと見た映画は確かにコメディだった。僕がそう見れてないだけだった。ただ、最後にAさんと別れた時、何て言ってしまったのかだけは思い出せなかった。
だから、このリングから生きて出たかった。
「答えを見せてやるよ、カンガルー」僕は言った。「だから、起きてくれ」
カンガルーは膝を立て、カウントぎりぎりで立った。審判の意思確認が済むと、僕をきっと睨んだ。
その目は、最初に見たときと違って澄んでいた。
試合が再開した。カンガルーはダウン直後だと思えない早さで、やはり接近してきた。僕は正拳突きを打った。カンガルーのガードを突き抜いて、水月に直撃した。カンガルーの動きが止まる。アッパーカット。当たる。打ち下し。これも当たった。大きく体勢の揺らいだカンガルーに猛攻を掛ける。ロープ際、正拳直突き。カンガルーはガードしたが、打ち押され、リングが衝撃で揺れる。押していると思ったが、カンガルーはロープの反動を生かしてストレートを放ってきて、僕の左胸に当たった。鋭い痛みが走った。肋骨が折れた。僕は下がったが、カンガルーは追い打ちを掛けてこなかった。肩で激しく息をしていた。僕は再び前に出て、痛みのない右をなるべく使いながら激しく攻めた。今度はカンガルーも反撃してきて、激しい打ち合いになった。僕もカンガルーも、あちこちから血を流しながらも、打つのをやめなかった。しかし、そのお互いの拳には、もう復讐心も恐怖の心もなかった。
カンガルーのパンチが僕の目の上を切り裂き、ぱっくりと開いた。踏みこらえ、斜打ちを顔面に叩き付ける。カンガルーのガードが、ゆるみ、上がった。勝機だ。全身がカッと熱くなり、カンガルーの胸の中心を凝視していた。ハートブレイク・ショットを心臓めがけて、全体重を乗せて打ち込んだ。クリーンヒット。カンガルーの口が空き、マウスピースがポトッと落ちた。次で決まりだ。心臓を射抜いた右拳をいったん引き、顔面めがけてのストレートを打った。
カンガルーは躱した。
空振った僕の体は、大きく隙を見せた。
カンガルーが左拳を溜めるのが見えた。
僕は左肋骨の痛みを忘れていた。そのまま、体を振りもどして、渾身の左フックを打った。
お互いの拳が顔面にめり込んだのは同時で、僕らは仲良く倒れた。らしい。

意識が戻って、まず目に入ったのは、倒れたカンガルーだった。それから数秒して、自分がまだリングの中にいることに気付いて安心した。僕もカンガルーも医務員に囲まれていたから、試合は終わったのだと分かった。僕が立ち上がれた頃には、カンガルーも目が覚めていた。
僕はカンガルーに歩み寄り、手を差し伸べた。一瞬間はあったが、カンガルーは僕の手を取って起き上がった。僕たちは、握りしめた手を離さなかった。
「また、やろうぜ」カンガルーは言った。僕は苦笑で答えた。会場は終わりを知らない拍手が鳴り続いていた。
リングの下では、父が荷物をまとめているところだった。僕はリングを降りた。「父さん……」僕が言おうとすると、父は相変わらず表情を変えずに、「よくやった、と言いたいところだが……」と言って、それから口の端で笑い、会場の出口の方を見た。「家に帰るまでが修行だ。わかるだろう?」父の目線につられて出口を見てみると、そこでは一人の女が会場を出て行くところだった。Aさんだった。
僕の顔がそうとう面白かったんだろう、父は威勢よく笑った。「な、何を知ってる!」僕はいかにもまぬけにそう叫んだけど、父は笑いっぱなしなので、答えを待たずに出口に向かって駆け出した。外に出ると、少し離れた駐輪所で、Aさんが自転車のスタンドを上げて走り出すところだった。僕は彼女の名前を呼びながら駆け寄ろうとしたが、彼女はこっちを見ないまま向こうへ走っていった。「くそっ、なんてこった」僕は小声で言って、そのままAさんの自転車を追いかけた。僕が段々距離を詰めていくと、Aさんはスピードを上げた。僕は全力疾走に近かったが、Aさんもわりと本気で漕いでいた。試合中は忘れていた全身の痛みがいやに大きくなった。息があがり、肺がきりきりと軋んだ。Aさんは大通りから小道に入り、登り坂を進みはじめた。僕は、もう勘弁してくれと叫んで土下座でもしようかと思ったけど、その必要はなかった。坂を上りきる前にAさんがへたばって、サドルから降りて手で押しはじめていたからだ。
僕も走るのをやめ、やや早足で歩いた。気がつくと、僕らの家のある住宅地の中だった。
日がだんだんと落ちていった。Aさんと僕の距離は再び縮んでいった。ちょうど僕の家の横を通り過ぎた辺りで、僕は彼女と並んだ。
「見にきてたの?」僕は言った。「べつに」Aさんは言った。
僕は言葉を探した。
昨日のことをあまりよく憶えてなかった。ただ、怒らせるようなことをしてしまった気がして、焦っていた。
「昨日、どこまで話したっけ」僕はさぐりを入れた。
「何も」彼女は言った。
「そうか、ごめん」
彼女は足を止めて、僕を見た。
目が怒っていた。少なくとも僕にはそう感じられて、それはカンガルーの憎しみに満ちた目よりもきつく思えた。目をそらしたかった。「いや、やっぱり何か言ったよ」僕は言った。「何も言えなかったくせに」彼女は呟くように言った。
彼女も言葉を選んでいるのが分かった。
僕はゆっくりと、Aさんの肩を抱いた。
彼女は動かず、僕の目をじっと見続けていた。表情も変わらなかった。でも、目は嘘をつけなかった。
彼女を抱く手が震えそうになるのを抑えながら、僕は口を開こうとした。
「好きだよ」Aさんは言った。
僕が一瞬硬直した隙に、彼女はふわりと僕の手から逃げて自転車を押して走っていった。一度だけ振り返って、「ばーか」と言われた。

格闘技のようにうまくはいかないものですね。こんな僕にアドバイスを下さい。





金城
知るかよ! それとあなた、ボクシングの試合の直後にそのままAさんをおっかけたんなら、格好がトランクス姿のままじゃない。それで道路を全力疾走とか、住宅地の真ん中で女性の肩を抱くとか、ちょっとねえ。でもカンガルーとボクシング試合は私もやってみたいですね。なんか全体的に夢っぽくていいです。その調子で生きてれば、いずれお父さんみたいなナイスガイになれますよ。








PV(ぽんぽこう”ー)

私がバックでピアノ弾きながら、ジャモさんやポエム君がポエムを読むという、ポエミーでエレジーなプロモーションビデオを録りました。カメラを回していたもっちーに「もはや朗読ではない」と突っ込まれたけれど、私は元気です。やりさんはもうちょっとまっててね。

2チャンネル入力を断念したのがちょっと残念。映像となると私はちんぷんかんぷんなので、染めのようにトラウマを作らないよう深入りしないことにする。

あと撮影が終わって飯を食っていたらなんか女装の話になって、私が「俺だって化粧すればかわいくなるはず」説を唱えると、その場にいた全員が賛同とは異なる態度を取ったので、奴らのふざけた幻想をぶち壊すために8月15日の足尾銅山仮装イベントに女装で出ることにしました。ほんとに出るので、かわいくなった私をぜひ観てほしい。そして化粧品はだれに借りたらいいかと話し合ったら、佐野画伯に白羽の矢が立ちました。そういうわけで貸して。ちなみに吉川なおしの神輿計画の同時決行も乙とおぼすので、これも話し合おう。群馬は都市ではないけど面白くなると思うでよ。


なんという……

安易に染めを引き受けてしまったことを後悔しはじめてますよ。
接着剤のある技法と、ない技法では、将棋とオセロくらい違う。
ようするに、最低限のルールだけ教わっても、まともに打てない。

油絵の画布は、目止めされ、地塗りされ、描き具合が調整されるが、
今回は目止めすらされてない生の布に、染料で描いてるのであり、
にじみの具合が全く読めないのである。

筆はそれなりに言うことを聞いてくれるが、布や染料が不機嫌。
材料は、うまく扱うと応えてくれるが、そうでない場合は怒っちゃうのだ。人にそっくりなので、材料を擬人化するのは非常にたやすい。
だから今の状況をたとえると、女の子がですね、「へたっぴ!」と言って怒りだし、しかも帰ってしまうという、ちょっと絶望的な感じなんですよ。我ながら今のたとえはどうかと思うが、もういっそ発狂して油を使ってやろうかと思うレベルの苦悩。

でも、まだ数日猶予があるので、慣れてみせます。愛に時間を! これも、かわいくなるための修行の一つだと思って。そめそめ。めそめそ。

naniganannanoka

gunma ikisobiremasita.jamosan hontogomen.waritokaradakitui.ato some muzukasii.nijimu.doredakenijimukawoyosokusurukotogakotudatoomottayo-.atamaokasinoseisindenorikiru.sikasibaiorizumugayayakudarizakaninattakigasitekitanode,kongotyottosinpaidehaarimasune.saikin,shoujoninarutoiukotowokougennsurukotonisukositameraigaumarehajimetaritokasitete,soregajibunnowaritutuarunatoiuteinentositeomokunosikakattekitarisiteruwakede.aa,dousitekonnnakotoninattesimattanokasira? bakanewatashi,obakasanyone,nantutte.koregajinseika,yosi,sorenarabamounidoto.demosaikin,bungakunetadekyouyuusurukotogaooiyuujinwomotukotogadekiteirunode,maaikiterebaiikotomoarunodarou.hariboteereji-,I wish your Victoly. garoudenn no kotoba--oretatihananiwokisotteiru? gijutu? tairyoku? konjo? sutetamononokazu? kanasiminoookisa? iya,sonodoredemonai. yes sonodoredemonaindayo.sizukaniowatteikusekai,sorewosizukaniukeirenagara,sinumadeikiru,sonnnawatashinidekirukotogaarunaraba,aidakehawasurezuniiyoutotutomerukotokuraidesuyo.

美術脳

二日ぶりに帰ってきて台所に立ち、「膠の臭いがする!」と思ったら、だしっぱなしの牛乳が腐敗してただけだった。似てるんだなあ。まあどちらもうしさんのタンパク質。

関東縦断

帰ってきたと思ったら、明日は群馬に行かなければならない。上へ下へのジレッタ。

あと父親から小説を借りて、読んだ。

映画篇 (集英社文庫)映画篇 (集英社文庫)
(2010/06/25)
金城 一紀

商品詳細を見る



金城一紀は何冊か読んで、メッセージ性重視の作風なんだな、と思っていたが、これは! 熱い! そして甘酸っぱい! 「男の友情」「ヤクザ活劇」「ラブコメ」の黄金三要素全て備えて、見事に群像劇を完成させている。クライマックスでは映画「マグノリア」を思わせる爽快さがありましたね。「なんか運命っぽいけど、実はそれぞれのエピソードあんま関係ない!」という、伏線が収束するのではなく散弾のように散っていく爆裂のオチ。あとバイク乗りのおばちゃんがドラゴンボール的なバランスブレイクで強いのに感動した。なんだよあの強さは! ギャグか! 悲しい復讐の瞬間なんだろ!? いやー、こういう小説書きたいなと思いましたよ。すばらしいです。みな是非読め。





やはり手作りが一番

ちょっと横浜に行ってまいります。

体張り企画案

みなさん、八月あたりに、最高気温35度以上の日を選んでハーフマラソンやりませんか? コースは五日市街道。熱射病で倒れた奴は玉川上水に投げ込むっていう、考えただけで面白い企画です。みんなで肉体の限界に挑戦して暑さなんて吹っ飛ばしましょう。ちなみに参加者がいなかったら一人でやります。でも寂しいから、誰か一緒に死んでくれ! 玉川上水だし! どうだろうか? 
プロフィール

金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

最新コメント
カレンダー
06 | 2010/07 | 08
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。