FC2ブログ

天と地

 金曜。エル・グレコ展にいってきた。非常に好きな作家のひとりだが、本物を見た今の今まで、真の凄さを知らずにいたことを思い知らされたね。
 
 彼の作品は、ありえないほど時代を先取りした大胆な筆致や劇的な色彩が目を奪うが、なかでもとりわけ気持ち悪いほどに引き延ばされたデフォルメが特徴的である。
 一体何を考えてこんな造形をしたのだろうか……と不可思議に思うが、じつはこれは絵を正面から観ることを前提としていないからだそうな。

 たまたま私の近くで観ていたあんちゃんが、連れてる女の子に得意げに「こういう聖人とか枢機卿とか、位の高い人の肖像は目線より高い位置に飾られていたんだ。だからその位置関係から観るとバランスがちょうどよく見えるように描かれているんだよ」と言って、しゃがみながら見たりしているのだった。なるほど、しらんかった。さっそく倣ってみると、なるほど確かに不自然に伸びていた下半身が縮んでちょうど案配よくなる上に、突き出した膝頭が迫力をもって迫ってくる。
 すごい。

 なかでもその効果が最大限に発揮されたのが、今回の目玉「無原罪のお宿り」である。


20070818_380628.jpeg


 これは縦に3メートル以上ある大きな作品であるが……絵のすぐ前にしゃがみ込んで仰ぐように見ると、マリアさまの足から頭までがものすごい吸引力のあるパースになって、天国に連れ去られそうになる。感激のあまり涙が出た。この感じは絵じゃないとならない。やっぱり絵はいいな。


 さて、技法の考察。
 レンブラントに先立つことだいたい半世紀くらいの人なのだが、すでに固い絵の具でぐりぐり描くことをやっている。つまり、樹脂を多用しているのである(油だけだと流れて平滑になり、樹脂分が多いと可塑性のある固い絵の具になる)。今手元に文献がないのと時間もあまりないので本格的な考察はまた追々として、経年変化の状態としては細かいヒビ割れ、つまり自然な範囲で奇麗に収まっていることが見られるので、絵の具の練りは非常にすぐれた処方であることが察せられる。これは後述するが、透明色について非常に驚くものを見た。
 マチエールの作り方に関してはこの細かいヒビが味として相当に利いているので、技術かどうか判然としない部分がままある。しかし、描きっぷりはいい。人の肌は基本は薄塗りで、グレーズは標準的。ただ、彩度が低めである。低彩度は彼の個性なのかもしれない。ややワイエスに通ずるものがあるかも。
 ときどき粘りのあるメディウムでゆるく絵の具を溶き、線的な表現に近い使い方をする。大体が黒褐色。煮た油か、あるいはブラックオイルを使っている可能性がなくもない? とにかく、上記のデフォルメを除外したとしても技術的に奔放な感はある。イッツァマニエリスムというか。

 そして、一番驚いたのはグレーズ。グレーズは薄く溶いた色を塗って、乾いては何度も重ねてを繰り返し、油絵らしい深みのある色彩を作る技法である。これはもっとも技術が出てしまう技法のひとつで、その絵描きが試されてしまう、とまでも言われたりする。「ティツィアーノは『ウルビーノのヴィーナス』を描くのに30回もグレーズを重ねたんだ!」なんて、よく芸の道は長く険しいんだ、っていう脅しのように語られたりするけど、はたしてエル・グレコはどうかしらん。とおもうと、これが服のグレーズが雑なんだ。雑って言うとあれだけどさ、テレピンでシャバシャバに溶いて、バチャって一回かけておわってる部分とかあるわけですよ。「こんなかったりーことやってられねーよ!」みたいなね。だからというわけじゃないけどさ。
 まあ、溶剤で薄くしたせいで、下地の絵の具のテクスチャに染み込んで、質感が絵の具になっている。それがいいのかどうなのか、ちょっとよくわからん。まあ、全部が全部描く必要はないし、そういう処理で終わらせる部分が絵画にあるのは、いいことではある。だが、レンブラントとくらべてしまうと……謎。
 それより面白かったのは、そのまま服をグレーズして、影を付けるところ。
 普通陰影は、あらかじめモノトーンかモノクロームで描いておいて(ようするに白黒の下絵をまず描いてしまう)、その上に彩色する。グレーズは身もふたもない言い方をすると「塗り絵」なんですな。もちろんちがうけどさ。それが、彼の絵は下絵にあまり陰影がなくて、アリザリン系(赤の透明色)の絵の具でグレーズしながら、影の部分を厚く塗って暗くしてしまう。
 アリザリンは薄く伸ばすと目の覚めるような赤になるが、厚いと黒に近い、血のような色になる。その性質を利用して、襟の影などにべっちょりとアリザリンを厚塗りしてしまっているのだ。
 これは、すごいことだ。
 透明色の厚塗りは、教科書的にいうと「バカの一手」である。
 透明色は、厚塗りすると脆いし、光に弱いし、物質感もふわふわしてるし、理に反しているのだ。明度を落としたいならあくまで薄塗で重ねていくべきで、厚くしたいなら下地を不透明色で盛っとくべき。
 それを……さすがグレコ! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ スーパーリアリズムの技法オタクが見たら発狂しちゃうんじゃないのかな。
 しかし、その厚塗りしたアリザリンも亀裂が入ってないところを見るに、さすがである。

 そんなわけで、エル・グレコ展まじおすすめ。四月頭くらいまでやってるんじゃないかな。上野、都美術館なり。


 土曜、奥多摩にサイクリングしにいき、ダウンヒルでこける。しかし、しらふだったので骨も歯も折らなかった。酒さえ飲まなければ生きていけるんや! 俺は不死身だ! 

 でも自転車はもう廃車かなあ。



 さて、明日から文学ゼミ合宿、伊豆は伊東へいってきます。
 アオリイカが釣れたら天国。釣れなかったら、罰として地球の歴史を最初からやり直す。じゃあね。

 




スポンサーサイト



プロフィール

金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

最新コメント
カレンダー
02 | 2013/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター