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「花のズボラ飯」三巻が出てた 或は 耳たぶ縁起白い粉

 終わったと思ってた「花のズボラ飯」の続刊が出た。

 まあ物語的には二巻で終わってるので、三巻は花さんが飯食うだけの話なんだけど、影響されてしばらく一人鍋して、湯豆腐にはまりました。
 で、読んでると花ちゃんはお燗を作り出して、いつものように独り言いいながら「人肌のぬる燗」とかいう日本の味の表現に感嘆しだし、「耳たぶくらいの柔らかさ」というのにも言及する。が……
 私が「耳たぶくらいの柔らかさ」で真っ先に連想するのは、食べ物でなく胡粉団子である。

 遥か昔、大学で日本画の実習を受けたとき、まず岩絵の具の作り方から習った。
 (日本画は油画や水彩と違って、描く直前に絵の具を自分で練る)
 普通の顔料は、絵皿の上で膠水と合わせて、中指で優しく愛するようにこちょこちょこねてやると、やがて全体に湿り渡って絵の具になる。中には朱(バーミリオン。スケ番)のように扱いにくいものもあって、彼女は簡単に膠になじんでくれない。なので、あるていどこねたら、絵皿に広げて火で炙り、焼き付ける。ヤキを入れて、もういちど湿らせてこねることでちゃんと絵の具になる。
 それで胡粉だが、これは貝おもに牡蠣の裏側を削って取る白色顔料で、何を隠そう白亜ちゃんである。
 (厳密には違うが、どちらも炭酸カルシウムであり、相互に代用しても組成的な問題はない。ものによって粒度がまずいとか不都合あるだろうけど)
 白亜ちゃんは油絵の世界では体質顔料扱いされて白とすら思われておらず、「色が濁る」「安価絵の具向けの増量剤」「実は乾燥を遅くする」「耐久性も耐光性も下がる」「死ね」などといわれもないいじめを受けておりスクールカースト最下層なのだが、日本画では伝統、使用率ともに他を圧倒しており、唯一の白とまではいかないが、他の白色顔料の頂点に立っているのである。むしろ、群青、朱と並んで、日本画に絶対になくてはならない顔料の一つと言っていい。いうなれば、クラスではいじめられてるけど、部活ではエースでみんなを全国に引っ張ってくような、そういう子。
 で、彼女を絵の具にする際、「百叩き」という独特の作業を行う。
 胡粉と膠水とで練ってお団子状にしたのち、絵皿に百回ほど叩き付けるのである。これは顔料と膠をなじませるため。
 これが完了する目安を、「耳たぶくらいの柔らかさになるまで」と言われた。
 最初にこれを聞いたとき、内心失笑した。なんだその表現は。雅なつもりかと。なにが耳たぶだ。これだから日本画の連中は好かんよ、などと思いつつ、ぺったんぺったん叩き付けて、もういいかな、と、薄くなった胡粉団子をそっとつまんでみた。
 
 「あっ! 耳たぶだ!」

 これは、学生生活で何度かあった感動的な瞬間の一つだった。マジで耳たぶなのである。日本画の奥の深さを見くびっていた。絵の具が耳たぶになるような世界があるなんて、知らなかった。当時、まだ未成年だった。少女ですらあったのかもしれない。今となっては分からない。
 胡粉の絵の具としての使い方は、それから適宜ちぎって、膠水や水に溶かして、ゆるくして使う。

 胡粉の使い心地としては、といっても、十年以上前にその実習で使っただけなのでうろ覚えなのだけど……、透明度が高いが、しかし濁るようなこともなく、塗り重ねして厚くすることもできるので、非常に器用な白だと思った。一枚しか描いてないので、これ以上偉そうに語ることはできない。私は日本画に関してはド素人だ。
 でも、普段不遇の白亜ちゃんが輝いているのが見れた希有な機会ではあった。
 ちなみに油絵スクール最下層では、支持体や部活(日本画)で活躍の余地がある白亜ちゃんはまだ救いがある方で、同じ体質顔料だけどレーキの体質くらいにしか使われないブランフィクスや、白色顔料なのに存在感ゼロのリトポンとかになると悲惨で、いじめられるどころか存在を認識してもらってない。教室に入ると自分の机に誰かが座ってお喋りしてて、何も言えずに黙ってまた教室を出て行く、みたいな感じ。私も、リトポンちゃんには声をかけたことがない。ごめんね……だって、何に使えばいいかよく分かんないんだよ、きみ……。
 本来白色顔料は油絵において、地位は一番高い方だと言ってもいい。基本的には、パレットの上で一番量が多いのは白だし、また排除しづらいのも白だ。というのも、油絵というのは、暗い絵の具だから。油の屈折率の問題で、水性の絵の具より色が沈む。水性の絵の具は水に濡れるとむしろ明るくなる(一時的にね)し、蒸発するので顔料本来の明るさが見えてくるが、油はそうでない。明るさが足りなくなるのである。
 なのでスクールカースト最上層には白色顔料、同じ白い粉なのに白亜ちゃんと天と地の差の扱いを受けている子たちが我が物顔で振る舞っているのであった。シルバーホワイト、チタニウムホワイト、ジンクホワイトらがそうである。また、チタニウムホワイトと科学的には同じでやや扱いやすくなった妹「パーマネントホワイト」や、最近転校してきたすっごい白い子「セラミックホワイト」なども加わってる様子。
 シルバーホワイトは、アメリカで例えると、チア部のリーダーである。歴史の長さ、油絵にとっての価値、表現力、耐久性などのスペック、どれをとってもぶっちぎりで、まさに華。テンペラが主流だったゴシック時代には金箔と共に我が世を謳歌していた天然ウルトラマリンだったが、油絵の時代になって初期フランドルに突入するとマリンちゃんとシルバーホワイト嬢は壮絶な覇権争いを起こし、絵の具を絵の具で洗う闘争が続いたが、やがてキャンバスが板を駆逐しだすとシルバーホワイトが勝利宣言、自分こそが油彩表現に絶対不可欠なものだとし覇権を確立。ウルトラマリンちゃんの地位は普通の高価な絵の具の一つに転がり落ちた。その因縁もあって、未だにウルトラマリンちゃんはシルバーホワイト嬢に近づくと顔色が黒くなることがある。
 とまあ、そういういきさつで、長いことシルバーホワイトは西洋美術で天下を取っていた。いわゆる「美術館で見る、西洋の印象派以前の古典的な絵」で、シルバーホワイトを使ってない絵はまずない。バーミリオンを使ってない、ウルトラマリンを使ってない絵はあるだろうけど、シルバーホワイトを全く使ってない絵というのは探すのは難しいと思う。チタニウムホワイト(酸化チタン)が使われ始めたのはここ100年以内、ジンクホワイト(酸化亜鉛)も19世紀になってやっと使用例がでてくる程度だ。白色顔料とは、シルバーホワイトがずっと唯一で、かつ、十分だったのである。
 
 でも、そんなスーパースターのシルバーホワイト嬢だが、毒っけのある性格が災いして、最近停学を食らう例が出てきている(販売を見合わせられている)。彼女は鉛化合物なので、下手に扱ったり、長期に触り続けたりすると、鉛中毒を起こす可能性があるのだ。これが唯一の短所である。正直、混色での事故(ウルトラマリンやバーミリオンとの不仲)は、現代では絵の具の精製技術が上がってるのでもう仲直りしているも同然である。嘘かほんとか、シルバーホワイトを使ってたばかりに鉛中毒になって死んだ画家の話とかも聞かされたことがあるので、まさに「命を吸う絵の具」「画家の命を吸った絵」になる。
 チタニウムホワイトは、そういった危険を回避するためにも生まれた絵の具でもある。
 物質的にすごく安定しており、何とも混ぜられて、無害で、堅牢で、スペックだけ見たらひょっとするとシルバーホワイトに匹敵するか、上なんじゃないか……と思われる、が、いかんせん色が強すぎる。
 まあ、これは好みの問題かもしれないが。
 とにかく色が強いので、混色に気を使う。無神経に使うとすぐ白っちゃけるし、リカバリーしようとすると色を戻すために大量の絵の具が必要。すると不必要にかさが増えたりするので、無駄なやりとりが生まれたりし、扱いなれるまではストレスフルだったりする。
 が、その強い白さを生かして、地塗り(キャンバスの白を塗ること)に使うことがある。これは主に白亜ちゃんに添加する形で使う。だから二人はわりと仲はいい。その他、白亜ちゃんはイエローオーカーとか、土色ともいっしょになることもある。イエローオーカーは庶民出身の気さくな子なので、地塗りとかも嫌がらない。意外と友達いる白亜。
 最後の白ジンクホワイトは、ユトリロが愛用したことで有名。着色力の弱い、やさしい白だ。繊細な混色や、柔らかい表現に向いている。白グループに所属していながら、物腰の優しい、おっとりした子。ただし病弱であり、耐久性に乏しい。下層から使用すると亀裂など事故が発生することがある。また表現的に繊細という点から、あまり強いオイルとは相性が悪く、ポピーオイルとかを欲しがるようである。基本的には最上層部、仕上げに使ってあげるといい、と言われている。私は大学一年くらいを最後にほとんど使ってない。というか、シルバーホワイト嬢がいればべつになにも必要に思わないのである。
 「パーマネントホワイト」を使ったのはもはや中学生の頃、「セラミックホワイト」は使ったことすらないので、何も書けない。

 白い子たちはそういう感じである。白色顔料として認められるか、体質顔料になるかは、油と混じったときに白でいられるかどうかである。体質顔料になる子は、油と屈折率が同じなので、混ぜると透明になってしまう。白亜ちゃんやブランフィクスはそういった「あなたの色に染まります」的な健気さもあるのだ……
 ちなみに、このクラスでは体質扱いされている特異な存在に石膏がいる。石膏はテンペラの支持体にはなるが、ここではあまり存在感はない。しかしさすがに、石膏をいじめるというほど度胸のある子はいないようである。
 
 



 

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金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

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