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絵の具の血統主義

 絵の具は、同じ量のチューブでも色によって、顔料によって値段がぜんぜん違う。
 極端な例では、人工ウルトラマリンは、オランダのメーカー「ターレンス」のものでも数百円。天然ウルトラマリンだと、同じ量だと数十万になる(天然ウルトラマリンがチューブで売ってるとこなんて見たことないけど)。

 そんなかんじで、絵の具は値段が細かくグレードに別れている。国内メーカーは安いものからA、だんだんFへとランクアップし、値段を上げている。六号チューブだとAなら500円くらい、Fだと3000円くらいかな。ちなみに人工ウルトラマリンはAである。安い。かつて金と同じ値段と言わしめたウルトラマリンがほぼ同じかより高い質でこの価格。というか、アフガニスタンの山奥でしか産出しないという天然マリンちゃんがちょっとおかしいんだけど。

 そういうわけで、人工マリンちゃんは姉の天然に自分を安く売り過ぎだと怒られるのだけど、みてくれは遜色ないことから分かるように、絵の具の値段は単純にコストと希少価値から決まってくるもので、美しさに全てが決定されるわけではない。
 (そりゃ、中世では天然ウルトラマリンは絶世の美女で、彼女に敵う彩度を持つ者はいなかった。金のあるパトロンはだれもが使用を命じ、パートナーの金箔すら背景で、引き立て役で、マリア様の衣はきまって彼女が演じてたのだ。そんな時代があった。だが科学が時代を変え、妹が爆誕してコストを劇的に下げてしまった。しかしそういうことをあまり言うと、ただでさえ市場から消えてる天然さんが発狂するのでここまでにする)
 
 青色顔料というのは面白い世界で、どういう絵の具を選ぶか考えさせられる部分がある。というのも、青、赤、黄、という三原色で見ると、青は絵の具の種類が少ないのである。

 繰り返す! 青は絵の具の種類が少ないのです!

 はい。ちょっと考えてみましょう。
 この世は基本的に、赤っぽかったり、黄色っぽかったりするものが多いのです。
 土とか。
 それで、歴史的にも、赤いのとか黄色いのとかを作る方が、どうやら簡単なようなんですよ。
 赤は、朱とか辰砂とかベンガラとか、昔からあるしね。
 土色の顔料なんて原始から利用されてるし。
 緑もまあ、テールベルトと緑青まではすぐ発見できた。
 けど、青は難しい。どこからか、超キレイな石を拾ってこなきゃいけない。それこそウルトラマリン、つまりラピスラズリか、あるいはマラカイトとかヘタマイトとか。藍染めの発見を待ってもいいけど。
 とにかく……今に至っても、青色顔料、ひいては寒色の顔料は、暖色に引けを取っている。
 その詳しい理由は、理系の問題になっちゃうので私には知れないが、とにかく青というのは限られた選択肢だ。

 市場に流通している、主な青色の絵の具を述べてみよう。
・ウルトラマリン 言わずと知れた代表的青。透明色。安く、鮮やかで、使いやすい。油絵セットを買うと入っているレベル。古典技法に不可欠。
・コバルトブルー ウルトラマリンに匹敵するメジャーな青。コバルト色とはこれのこと。やや不透明なので、がつがつした書き方をするのならウルトラマリンと代替することもできる。器用に使えるので、青を一本に整理するのならこれを選ぶのもよし。
・インディゴ 藍。やや沈んだ青。黒とあらかじめ混色されていることが多い。染める感じがするので使い方にやや気を使う。黒の代わりに、色みのある暗色として使ってもいいのかもしれない。
・セルリアンブルー 青界に現れた新星。硫酸コバルト。国産メーカーでは体質が多めでややくすんだ水色だが外国のものはギュッとした深い青色。青色に珍しいガチ不透明色なので、持ってるとすごく楽しい……もとい、表現の幅が広がる。
・プルシャンブルー 精神病院から退院して復学してきた狂人。隣り合った子、誰彼構わず食う。通称、狼。ルノワールから「お前は危険だ!」と言われ、パレットから出禁をくらう。
・フタロシアニンブルー プルシャンブルーのサイボーグ形態。とにかく凶暴。ひと雫でも混ぜたら真っ青になる。こいつの有効な使い方が未だに分からない。筆もダメになる。
・ターコイズブルー 響きはメジャーだが、絵の具として選択されることはあまりない子。現在出回っているものはコバルトクロム青と思われるか、コンポーゼ(混色)である。よくわからん。画材屋いけばちょっとは確認できるんだけど、今日は雨ふってるから。(マツダ・スーパーのものはPB29の模様)
・バジターブルー いわゆる「水色」。コンポーゼである。マツダ・スーパーに関してはPB28,PW4(コバルトブルーとジンクホワイト)。基本的に積極的に選ばれることはない。が、同じ水色系のセルリアンブルーに勝手に親近感とあこがれを抱いたりもしてる。
 バジター「あっ、セルリアンさん、おはよう! 今日も奇麗ですね!」
 セルリアン「……うざい(死ね)」
 バジター「えっ」
 セルリアン「触るな! 服が絵の具で汚れる! グレードCの貴様がEのこの私に気安く話しかけるな!」
 バジター「そ、そんな……おなじ水色系どうし、仲良くしたかっただけなのに……(慟哭)」
 セルリアン「一緒にするな! 私が水色に見えるのは、国内産の粗悪な絵の具が、白亜をいっぱい混ぜたせいで白っぽくなって水色になったせいなんだ! 私が高価なせいでみんな安くするためにそうしてるんだ! お前みたいに製品コンセプトの時点で水色の奴と一緒にするなアナーキーインザUK!!」
 バジター「びえー」

 ……とまあ、絵の具には混色による差別が横行しているが、これはいわれのないこととは言い切れない。
 なぜなら、混色された絵の具というのは、パレット上で作れるからである。
 だから、必然的に、そうではない絵の具がスクールカーストの上位に来る。つまり真っ白、真っ赤、真っ青、真っ黄っ黄、である。これらは作ることができず、むしろいじると濁る。
 逆にオレンジ、紫、茶、緑などは相対的に価値は落ちる。グレー系などはなおさらである。そんなものはいくらでも後から作れる。
 もちろんオレンジ、紫、茶、緑にも、代替不可能な貴重な顔料はある。ビリジャンは数少ない緑色顔料だし、褐色顔料は絵画制作には欠かせない。紫、オレンジも、混色で作ると彩度が落ちるので、ありのままで存在するその手の色相の顔料はありがたかったりする。
 一方で、商品のラインナップを増やすためにコンポーゼされている絵の具が多くあるのも事実。それは使いやすさを目指してはいるが、隠れたデメリットもある。
 絵の具には、混色に限界がある。数色以上(3色と言われている)を混ぜると、色が濁り、発色が極端に落ちるのである。
 これが、コンポーゼの絵の具を使った場合、あらかじめ制限されてしまっている。2色の混色絵の具ならまだいい。しかし、中には3色使っている絵の具もあるのである。最初からリミットなのだ。
 
 油絵の具の顔料の中に、カドミウム化合物を使用しているのがある。これはスクールカーストで言うと、なんだろう、新興のブルジョア一族で、ハイソな感じ。みんな鮮やかでちょっと毒々しいが、実は毒性とかそんなに気にしなくてもいいみたいな、社交のできてる子たちだ。
 カドミウムレッドはバーミリオンに代わる高彩度で不透明な赤、しかも比較的安価という立ち位置を得ており、カドミウムイエローに至ってはそれまで黄色顔料になかった高彩度・不透明・高性能の三拍子、空白の場所を取って独壇場を築いた。カドミウム一族の登場で、油絵シーンの表現の幅はかなり変わったと言っても過言ではない。
 そんな一族の中で、ちょっと遠慮しているのが、カドミウムグリーンである。
 カドミウム化合物は、赤、黄は作れるが、寒色は作れない。
 なので、カドミウム緑はカドミウム黄に、色を足して作られているのである。フタロシアニングリーンとか。
 画材屋では一見、「カドミウム」の名を冠して、赤や黄と並んで、鮮やかな緑を見せてくれる彼女だけど、裏では、「一族の面汚しめ……」みたいに言われてるのね。
 だからときどきトイレでひとりで泣いたりしてるの。
 「しくしく……いっそ、生まれる余地すらなかった青になりたかったよう」みたいなこと言って。
 でもそんな彼女は、だれとでも仲良くなれるし、堅牢なので、けなげである。

 そういう絵の具の進化や、牽制のしあいとある種無縁なのが、土色なのだった。
 イエローオーカー(絵の具最強)「カドミウムグリーンがやられたようね……」
 バーントシェンナ(コロイド)「フフフ……奴はカドミウムの中でも最弱」
 バーントアンバー(絵の具の形をした乾燥剤)「植物ごときにグレーズするとは不透明色の面汚しよ……」
 




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金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

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