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ラングレ「油彩画の技法」、まだ少ししか読んでいないが、のけぞってます。
この人やばい。

導入部では、堅牢性がいかに重要かを説いていて、そのためにさまざまな言葉を駆使している。堅牢オタは世の中にはいっぱいいて、そのほとんどは言うことややることが単にドグマティックなだけなのだけれど(ラングレはそういう人たちの権威でもあるのだが)、やはり本家は格が違うというか、彼の眼に見えている世界が違っている。

顔料について、現代は古典で使われていたもののほぼ全てに加え、優秀な新しい顔料が無数に発明されている。そのことは、選択肢を増やして可能性を広げるという、現代の長所だと私は漠然と考えていた。しかしラングレの言い方を引くと、それは「昔の画匠たちよりもずっと甘やかされている」という。
この言わんとするところは、利便性が材料に対する厳しい配慮と理解を損ね、いたずらに増えた選択肢がよりよい選択を難しくしているというものだ。
こうした現代の利便性への反駁は、ファン・アイクなどの最も旧い時代の油彩技法が、限られた条件下のもとであったにも関わらず、色彩や保存の面から見ても非常に優秀であることに根拠づけられている。
ラングレがルネサンス前後の時代への憧憬をゆるがしがたく持っているのは自明であるが、そのビジョンは常人の域を超え、見える世界を変えている。言葉遣いからもそれはにじみ出る。

さらに、この後現代の急性さを批判するが、これは以下のように書かれている。



現代の画家は、何も知らずに(そして外圧に対抗して戦う力もなくて)、完全に醗酵した作品にするために必要な当たり前の入念さに時間を貸す余裕がもはや重んぜられないようにしてしまう無秩序を、自分の作品の中に持ち込んでいるのだ。
 ここでは、現代の狂気じみた問題、つまり生活リズムの問題について触れてみよう。
 プリミティフの知恵者たちは、われわれとはまったく違って、迷わずに一ぺんで作品の構想をまとめあげると同時に、忍耐強く少しずつ着実に部分から次の部分へと制作をすすめ、描き迷って直したりしない。
 われわれは、しっかりと舵をとって、一つの時代の終わりに臨むとともに、未来の新しい生き方に入っていかねばならない。われわれがこれまで絶対と信じていた「時」というもの、あるいはより正確には「時」のまとまり(ユニテ)は、広げられ得るように思われる。
 われわれは、知る知らぬにかかわらず、新しい生活のリズムに従うのだ。拙著『鐘の下の島』の主題をもち出すまでもなく、人間が自分の手で、創造者と被創造物の間と、宇宙のリズムと人間固有の血のリズムとの間の均衡を保たせるものを、壊しているということは明らかなのではなかろうか。



はい。最後の方で宇宙のリズムとか血のリズムとか言ってるのは、これはヨーロッパの伝統的な音楽観の話です。中世ヨーロッパには三つの音楽、すなわち道具の音楽(いわゆる、今我々が音楽と呼んでいるもの)、人間の音楽、宇宙の音楽があった。音楽には数学的な側面があって、音程の協和・不協和など、さまざまな論理的秩序についての研究がなされ、こういった秩序が人間(ミクロコスモス)や宇宙(マクロコスモス)にもあるのだと言われたのですね。

さて。絵具の話をしていたはずなのに、一瞬で宇宙のリズムにまで話が飛んでいったわけです。
絵具について語っていたら、いつのまにか宇宙のリズムに突き動かされていたわけですね。
こういう人は、まれに存在します。いわゆる「本物」ってやつです。

彼は単に堅牢性に、その保存の良さの面で憧れているのではない。500年経っても色あせない油彩画は「秩序と一致した存在」であり、それを可能にするための技法は、秩序の創造主、神にせまる手だてなのだ。

すごい。
こいつ、狂ってやがる。
なんだかくやしい。


これから先、ラングレさんがどのようにご教授たまわれるかが今から楽しみであるが、しかし一方で不安も。
「油彩画の技法」は、若干名の読者を得ている。とくに古典志向の専門家には読み手が多い。
でも、ラングレさんの言ってることを、その精神まで理解して読めている人ってどれほどいるのだろうか? 
そもそも、技法や材料についての修練は、つきつめれば世界の理解といったところに行き着くものだが。
多くの人にとって、それは感心ごとではないのだろうか。多くの人には、すべては作品に繰り込むための知識でしかないのだろうか。
時々、その認識の差というか温度差に、自分のやってることが本当に正しいのか不安になることもある。

ま、あせらずユニテを広げていけたらなと。

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金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

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