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漆芸

 府中の伊勢丹で、漆職人さんと話した。

 赤地に黄や黒の模様を、日本画の「たらし込み」のように入れた、非常にめずらしい器を見せてもらう。漆器なので当然まったくフラットに仕上がっており、畑違いの私にも一目で超絶技巧と分かる。秋田の職人集団の中でも、これができるのは40年キャリアの人ただ一人だという。

 その他いろいろ、漆器の難易度について教わる。
 木目の見える摺漆塗りが一番やさしく、そもそもこれは本来下地塗りだという(なので耐久性は劣る)。趣味人でも数年で奇麗に仕上がるらしい。
 木目の見えない、朱や黒で均一な塗りが、10年以上の熟練を必要とする。
 たらし込みは、美しく仕上げるのは不可能に近い。

 巷で出回っている安価な漆器は、中国製である。
 佐藤栄作・田中角栄の時代、拡大する消費に応えるため、漆器が大量生産されはじめた。これはウレタンニスがスプレーで吹き付けられ、表面だけ中国産の漆がちょろっと塗られている。また材木が集積材などで耐久性におとり、ガーゼなどが下地に巻かれて補強されていたりもする。かつては乾燥速度を上げるためにアスベストまで使っていたらしい。
 職人さんいわく、中国人が悪いのではなく、やらせた日本人が悪いのだそうだが。


 日本製の漆器は正しく扱えば十年以上、あるいは一生保つので、実はコストパフォーマンスがよい。また使い心地は当然よく、「もう戻れない」という。
 おせちが漆塗りの重箱に入っていたのも、漆の殺菌効果による保存効果を利用した合理的なものであった。まさに日本風土のためにあるような素材である。
 だが持ちがいいゆえに、顧客は種類が揃うとそれ以上買い足すことはなく、新しい世代は関心を持たず、市場は縮小する傾向にある。ぜんぜん儲からなくて、馬鹿らしくなってやめてしまう職人さんも多いらしい。
 先の40年キャリアの職人ですら月給20万程度だという。そんなあんまりな。

 「ここ(伊勢丹)では安めに提供させていただいて、売り上げは期待してないですよ。詳しい人なら『3500円!? 安っ!』ってなるんですけど、素人さんだと『何で器がこんなに高いの?』ってなりますからね。そこでもう温度差があるんですよ。だいたい、原木が1000円、漆がバケツ一杯数万円のを使ってるんだから、大量生産みたいな価格になるわけがないんです。この値段でも儲けはほとんど出ないですね。修理の場合は分業しますから、取り分は500円くらいです」など。

 世知辛い話もたくさん伺ったが、ほとばしる漆への愛も感じた。
 職人さん曰く、漆は「言葉を喋れない赤ちゃん」らしい。
 漆は乾燥するまで温度や湿度の変化にとても敏感で、しかも自分からそれを知らせることができない。だから常に注意する必要がある。ので、「どうしたの? きげんはどう?」などと声をかけてコミュニケーションを図る(ほどに注視する)。
 やはり材料を極めると、人間に見えてくるもののようだ。しかも、だいたいかわいい。この心理は何だろう。

 色々教えてもらったので、箸と碗を買ってみた。最後に変な話も教わったが、ちょっとアレなので書かない。みんなもっと美術や工芸に興味持ったらいいよ。


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No title

面白い、いいね。冒頭の器見てみたい。
お暇な時飲んだりしましょ。
ご近所さんなんですし!

No title

新年会あたりやろうかしらね。あと俺が買ったのは普通の塗りのやつね。超絶技巧お椀は高くて買えなかったす。
伊勢丹に来週くらいまでいるみたいだから、行けば見れるね。

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金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

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