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あなたと反応したい(乾燥編)

昨日シッカチーフの事をえらそうに言及したが、ちょっと気になったので調べ直してみた。

いわゆるシッカチーフというのは、鉛、マンガン、コバルトなどのリノール酸塩または樹脂酸塩の入った溶剤である。リノール酸塩や樹脂酸塩の化学的な性質は知らない。でもだって本に書いてあるんですもの! で、このうち鉛の入ったシッカチーフは無色透明で、ホワイトシッカチーフ、シッカチーフブランなどと呼ばれている。
鉛の乾燥促進は穏やかで、処方量を間違えなければ作業をいくぶん効率よくさせられる。

マンガンを用いたシッカチーフは、色が茶色である。ブラウンシッカチーフ、シッカチーフクルトレなどと呼ばれる。強力な乾燥をもたらすが、表面ばかり乾いて中が固まらず、不安定な状態を来しやすいというリスクがある。急ぎの作業に重宝するが、基本的に多用は禁物とされる。
マンガンは、絵具にはアンバー系に含まれており、これを少量混ぜる事でもいくらか乾燥促進を見込めたりもする。

コバルトのものも色は濃いのだが、使った事がない。最強過ぎるので、恐くて使えない。
しかし、マンガンやコバルトは強い酸化をもたらすので、不飽和度の低いオイル(ポピーとか)には有効という話もあったりする。

そんで、それ以外のシッカチーフにどういったものがあるかというと、コーパルが主成分のメディウムだという。ルフランのフラマンシッカチフ、ターレンスのハーレムシッカチフなどがそうなんだって。

しかしルフランというメーカーは、半分狂ってるほどメディウムに情熱を捧げているので、いくつかのチューブ状メディウムを出し比べてみるとその多彩さとクォリティに驚かされる。コーパル主体でも、どういう処方と加工でそうなるのか見ただけではまったく分からない。

ニュートンが内気な子だとすると、ルフランは自分が目立ってないと気が済まない、わがままタイプだと言える。ちなみにターレンスはツンデレである。


しかしやっぱり、油には油の気持ちがあるから、こちらの都合でせかしてしまうのはあまりよくない事ではある。油は人と同じくらい感情を持っている。

年月が彼を変えてしまったの

乾性油の黄変テストが半年経過してたので、状況報告。
学生時代に自製したオイル、今年自製したオイル、その原料のW&Nコールドプレスドオイル、そのほかW&Nシックンドオイル、そしてマイメリのウォルナットが、あらかじめ薄い油で目止めした白亜地に並べて塗られている。それぞれ垂らしたままの厚く固まった部分、指で伸ばして薄くした部分がある

まず、光を当てない部分は、どのオイルも一様に強く黄変していた。特に表面張力ぎりぎりに厚く置いた所は。自製オイルは原料と目に見えた差はほとんどなかった。なーんだ、がっかりだよ。まあしかし、精製と濃縮したのだから、安定度は上がっているはず。でもそんなの個人で調べられないしなあ。ある程度技法書を妄信するしかないのか。

そして製品のシックンドオイル、最初から琥珀色で比較的濃いものだが、黄変にもっとも耐えたのは彼だった。さすが製品、やるじゃん。ただ、これらの差がはっきりと見えるのは、通常の使用では使われない厚さの部分で、うす塗りの箇所はそこまで変らないが。(それでもW&Nのシックンドが一発明るかったな)

ウォルナットは参考までに置いたが、やはり圧倒的に明るい。おそらくポピーはもっと明るいだろう。これはマツダスーパーの存在価値を認めざるを得ないのかな。しかし皮膜を指でなでると、やはりリンシードよりも柔らかく、頼りない。
やっぱりリンシードしか愛せない。

ちなみに、なんとなくルフランのシッカチフメディウムも置いてみたが、アルキド樹脂も若干黄変するみたいね。チューブから出した時はガラスのように透き通ってたものが、ほんのり色づいている。もしかしたら金属塩が入ってて、それもあるかもしれないけど。
(多くの人はシッカチーフ=金属塩溶剤と思ってるけれど、それはあまり正確な言い方ではない。シッカチーフという名前の製品に金属塩が入ってない可能性も十分考えられる)


結論
・ウィンザーニュートンが珍しく格好いいとこ見せた
・マツダスーパーは気持ち分かる
・日晒し漂白の神話に疑問が出てきました
・アトリエ部屋を、どこから大掃除したらいいか皆目見当もつかない。

初音ミクから美術論へのブリッジング

ミクが産經新聞に掲載されたらしい。




この曲、好きなのだけど、歌詞的には「日常の煩雑を今だけは忘れていよう」という内容にもかかわらず、「あなたは忘れたでしょ 愛し合った事も」という告発的な1フレーズが紛れ込んでいる。なので、気持ちよく酔ってるのにびっくりさせられちゃう部分もある。

正直歌詞としていらない部分なのだが、不整合であるがゆえに強く印象に残る。そう思うとマニエリスム的である。

不整合を容認するのは美術においても非常に大事で、なぜなら整合性のみを求めるとラファエロが究極になってしまうから。
しかし、人間の可能性を常に保持するならば、美から真を取り除かねばならない。

逆に言えば、ラファエロを究極としないためだけに、不整合もある意味美しいということにされている、と言える。

つまり美術とは「真に美しいのは何か」でなく、「人はいかに美を求められるか」という動機から始まる。以前はそうでない時代もあったが、近現代美術を、歴史の線的に成熟と捉えるなら、この出発点が求められる。



現代でいうと、ピカソは分かりやすいモチーフを、理論を用いて表現し切ったシビアな才能だが、一方でマティスのような、よくわからない物をよくわからない方法で表す人もまた魅力的なのである。
あるいは、デュシャンのような「いじわる」を、「意識しつつもスルー」するために、判断の「甘さ」は必要なのだ。デュシャンを本当の意味で受け入れてしまうと、西洋美術の背骨である古典美が否定され、その全てが間違いだった事になる。
(おもしろいのは、そうだとすると、デュシャンを生み出した母体が否定されて、デュシャン自体の正当性もないはずだというところね。デュシャンの偉大な点は、『肯定も否定もできないもの』が、美術作品で体現可能だというを示したところにある)

そもそも、人間は手先を動かしていると、自我も強く意識してしまうものなのだ。フランスのアカデミズムの時代でさえ、始祖のダヴィッドの時点で何か狂ってるし、直系の弟子のアングルはすでにゴーインマイウェイで、グロ君はロマン主義への憧れと葛藤の中で自殺している。あくまで古典に忠実だったカバネルさんは、かわいそうに印象派の敵役として残ってしまった。美術など真を求め得ないのであり、ラファエロですらそれにならうのである。


西洋美術のチャームポイントは、「古典期ギリシャ美術」まで遡行できるという点にある。空間再現性とか技術・理論的程度とかは実はあまり重要じゃなく、「あそこから始まってる」ことが重要なのだ。

なぜかというと、絵づらや技術的なことよりも、美術が成立する条件を受け継いでいることのほうが美術史を断然アイデンティファイするからである。

古典美術を継承するには、使われていた顔料や大理石を十分に産出する地相、メディウムが適合する風土、またその他の手段を消去する諸条件が揃っている必要がある。
西洋が、中世という大きな断絶を経てなお伝統をつなぎ止めたのは、そのような理由があったからだと思う。
でなければ、イスラーム世界が先んじていてもよかった。しかしこれは宗教的制約が強かったのである。

だからこそ、西洋美術は連続性に乏しいくせに、いや、だからこそほとんど脅迫的にと言っていいほど系統に執着する。



ところで、その規範となる古典美自体が、不整合を容認している部分もある。
先日、ミロのヴィーナスは腕が切れているからこそ美しいと発言した人を見たが、それで改めてその石像について考えてみた。

思うに、まずあれは、全体が調和するべくして計算された古典美において、欠損しつつ美しいフォルムを保っている事がありえないのだろう。人為的には、あの切り方は発想できない。だからこそ貴重なのだろう。

あるいは、サモトラケのニケよろしく、無いからこそのファンタジーもある。


だから、究極を求めて邁進する西洋美術自体が、実は非常な矛盾の上に成り立っているという言い方もできるのかもしれない。古典の史料は、古典美だけを提示してはいないのだから。


生活改善

二日連続で早朝に自然に目が覚めたので、これはやはり煙草を断ったからだろう。そもそも夜の早い時間帯にちゃんと眠くなるようになった。
が、日中どうもぼんやりしてしまう。書き物をしようとして、はかどらず。
手なら動くので、白亜地を作っていた。

市販白亜は、マツダで下地用と仕上げ用を試してみたが、やはり下地用はベージュに近い。これで仕上げ用が白かったら粒子が細かいことによる乱反射のせいだと言えたが、比べてみるとそうでもなかった。どちらもやや赤い。

つまり前使って驚いていたほるほる社製の白亜が異常だったのではなく、元々使っていた某マッド研究室のものが非常に白かっただけ、ということになる。

これはちょっと不思議な結果だ。マツダは国内の油絵具メーカーとしてはややマニアック志向で材料にうるさいから、マツダの白亜の明度が低いということは、白亜の明度とは普通そんなものだったのだと言える。ではマッド研究室で売ってるあれは何なんだろう。同じ顔料だと思えないくらい白い。


ちなみに白亜が一番美しい瞬間は、ピタッと塗られてエナメルのような輝きを見せるときだと思います。板全面が白い鏡のようになったあの質は、より明るすぎても深みがなくなり、彩度もあってはだめなので、白亜独特の神秘的な雰囲気があると言える。ただ、その後乾かさなければならない。
自分の一番いいところを人にあまり見せないあたりも、この子の良さというか、縁の下気質というか、つくづく苦労性なところがある。

ほほほるるうー

非常に平滑な白亜地をやすりながら、「つるぺたって言うな!」とか一人で言いつつ、いまのはさすがにやりすぎだなと思い直す冷静な判断力で新しい白亜塗料を作るのだが、持ってた白亜を切らしてしまった。私は市販の白亜は使った事がなく、大学の技法や材料を研究しているエキセントリックな教室からいつも買ってたのだが、切らしてしまうのを見越して某ほるほる社製のやつを一瓶買っていた。
それを使ってみたのですが、どうもおかしい。膠に沈むとだいぶ色が沈んでる気がする。定量を入れる頃にはそれは明確となり、撹拌したら白と言うよりはベージュに近いものになった。どうしたの白亜ちゃん! また嫌な事があったの!? おろおろ。板っ切れに塗ったりしてみて様子を見たが、どうにもならず。これはとても恐くて使えん、と冷静な判断力で合掌して謝りお蔵入りにする。
白亜は腐るほど埋蔵されてるし、どこのメーカーでも一緒だろうと思ったが、ほるほる社はもうちょっとプライドを持ってもいいんじゃないんですかね。

この際だから、沈降性炭酸カルシウムを使うと、どれほど不具合が起こるのか実験してみたくなった。
略して炭カルと言うが、これは白亜ちゃんの妹で、このほか日本画で使われる胡粉などもすべて主成分は炭カルである。
沈降性とあるものは、化学的に合成される。これは粒子が細かすぎて地塗りには不向きとされている。

炭カルの主な用途は油絵具へ混入して増量することである。もともと絵具の中に、調整材としてある程度入っていることが多い。白色だが屈折率が油と同じなので、湿るとやや無色透明となり、効きすぎる色を弱める、扱いを容易にするなどの効果がある。

大作や受験などで大量に絵具を消費する場合、この炭カルをパレット上で混入して水増しするのがコストを下げる手としてある。

これをすると乾燥が早くなると言われるが、実際にはまちがいで、遅くなってしまう。なぜそういう誤解が起こるかというと、粉を混ぜるので油の比率が下がり、加筆はしやすくなるから。私大の受験の五時間制作では、マンガン/コバルト系シッカチーフを使っても油の乾燥はあまり期待できず、油分を下げるか樹脂を入れるかしかない。しかし準備をする時間と炭カルを避ける金銭的余裕があるのなら、油抜きのみの方が発色を損ねないのでいいと思う。

この炭カルだが、受験生の頃に使い切らなかった分が、まだそれなりの量残っているので、板っ切れに上塗りして耐久テストしてみても面白いかもしれない。

そんな日曜日。



わがままを言われて困りたい

白亜塗料というのは非常にわがままちゃんで、処方量をミスったり扱いを間違えたりするとまるで仕事をしてくれない。比較すると、油絵具ちゃんは、ちょっと休憩して煙草を吸ったりしても、いい子にして待ってる。しかし膠で練られた白亜ちゃんは、ちょっと目を離すと膜を張ったり、固さが変ったりする。仕方ないから膜は避けて使うべと思ったら、あっという間に細切れになり分散、いくつか地塗りにまぎれてしまい、くそう何という凡ミスだ、という今現在。

でも白亜ちゃんはね、みんなの憧れシルバーホワイトやチタニウムホワイト(お嬢様風)と同じ白色顔料に生まれていながら、体質顔料なので、「やーい体質! お前が来ると色が濁るんだよ!」っていじめられたりしてて、それでちょっと気難しい子になっちゃったのね。だからしっかり愛をもって接せないとすぐ怒る。「中途半端な気持ちなんでしょ! もう知らない!」つって。しかし丁寧に地塗りを重ね、紙ヤスリで磨き上げると、えも言われぬなめらかで美しい白亜地が出来上がる(メガネ取ると美少女)なのを私は知ってる。デレさせるのが非常に高難易度な分、すさまじく奇麗になる。さらに体質としては決して前に出ることのない彼女だが、フランドル技法(グレーズのみの、透明水彩の油彩技法版みたいなもの。ファン・アイクなどが使っていた)によって透層されると、絵の輝きの源となり、主役に躍り出る。まるで文化祭の演劇の出し物に半分いじめで主役にされたのに、本番では(メガネ取って)めちゃめちゃ輝いててみんなびっくりした的な。上に乗ってるバーミリオン(スケ番)とかが「ケッ……これじゃ、あたいらが引き立て役じゃんか……」って、悔しそうに笑うような。ちなみにシルバーホワイトとバーミリオンは仲が悪く、廊下ではち合わせたりすると反応して黒変する。

そんな白亜ちゃんだが、常に孤独なわけではなく、力になってくれる友達もいる。同じ白色顔料のシルバーホワイトはやや孤高なオーラをかもしていて白亜ちゃんにはあまり関心がないが、チタニウムホワイトはけっこういい奴で、白亜塗料に少し混ぜて使うこともある。これは非常に色の効きがいいのと、毒性がなく粉末でも扱いやすいことによる。チタン白混入で明度が上がり、油に濡れたときの沈みも減る。そう、白亜ちゃんが一人で泣いてるときとかにもチタン白はそっと肩を抱いて、「あなただって油彩技法に欠かせない存在なのよ、一緒に下地になりましょう?」ってはげましてあげる、そういうやさしい子。よかったね白亜。
しかし私のパレットではシルバーホワイト嬢が大暴れしているので、チタンさんは出番皆無だったりする。


ところで、誤解のないように弁解させていただくと、私は絵具を女の子に例える事で楽しんでいるのではなく、絵具とたわむれる感動が伝わりやすいようにあえて擬人化しているのである。私にとっては絵具に囲まれることは、一般的な男性が女の子に囲まれる時に感じるようなドキドキがあるという、そういう事を言いたいのです。
人類には、そういう形の幸福も許されている。

そそそそそそそ!? そー!

今日はもう嫌になってきたので、走りに行って、後輩の芝居見る。そしてヒラリーが作ったばんごはん食べるんだい。

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漬け込んで絞った状態で干し、偶発的にできた模様を基に描き加える。全体的にこういう感じになる。
これ以上の事はできないので、求めないでください。


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自分の服にはネコちゃんを描いてみた。やると思っただろ。やるに決まってるべさ。

しかしこうして見ると、脳の中のファイン部分と少女部分が喧嘩しまくってるな。

そめにっき

現象をうまく使った柄を作ってからの描画なら、もしかしたらいけるかもしれない。
というかもう、それしかない。
逆境に学べ。

最終鬼畜染めフロオーケ・S(しんじゃう)

服三着分というのは思ったより面積が広く、こんなの筆や刷毛で塗ってたら出来上がる前に寿命がつきちゃう、と思い、風呂桶に染料を投入して、布を沈め、まず均一に染めてしまおうとす。

水かさはせいぜい数センチだが、十分大量に感じられる。量が多いとなんかグロい。
布をじゃぼじゃぼ漬けて、絞って、ベランダで干す。
いいのかこれで。誰かお助け。

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そして気がついたら、手も染まってた。

お……お出かけできねぇ………

材料魂

染めの材料専門店にいったりしてみた。
というのは、衣裳屋トモチャンと激烈な議論を交わした結果、私が柄を手描きするという結論に至り、染料や助材を選ぶことになったからである。
この柄を描く服は、最近多い一日限りのイベントなどに着ていく、いわば特攻服で、当分使い回すので失敗が許されない。
うう、初体験なのにハードル高いぜ。
あと新宿の服飾材料屋も教えてもらった。ウィッグや舞台メイクも揃えてあるので、その気になれば少女変身が可能。

そして、JINさんが出演している地下空港の公演「巨人達の国々」を見に行く。ギリシャ神話を基にしつつ、中野を舞台にエキセントリックなお話に再構成している。こういう感じのデフォルメは私は好きで、というかやったこともある。
「クロノスが、自分の子供を食べやすいように芋に変える」というシーンがツボだった。これはゴヤ涙目。



なにひとつ優しくない成分

ストリッパーは、ストックを探したらあった。五年以上放置されて黄色に変色している。恐い。

道具にこびりついた油を掃除するのに使った。ゴム手袋をすれば手でぬったくっても大丈夫だろうと高をくくったら、余裕で貫通してきていま右手がひりひりする。

あぶなし。

# 画溶液小話 そる?ぁん

Solvents 。

横文字に句点を打つ罪悪感を共有してほしい。
英語でどう読むか知らないが、フランス語ではソルヴァンと読む。なぜフランス語なのかというと別に嫌味ではなくて、美術用語はフランス語多いんだよ! それだけ!

で、この言葉、ずっと調合溶き油をさす語だと思ってました。
(調合溶き油とは、乾性油と溶剤、場合によっては樹脂や助材が混ぜられた状態のもの。そのまま描画に使用できる)

実際、確かホルベインから「ルソルバン」という名の調合溶き油が出ている(冠詞『る』をつけてる)。それを、「この場合商品名になっているが、本来溶き油全般をさす言葉だ」と聞いた気がする。

しかしウィンザー&ニュートンのサイトを見てたら、Solventsのカテゴリには溶剤が収められている。
国によってすこしニュアンスが違うのかもしれない。


ちなみにホルベ員のルソルバンは、受験生の時に「名前がかっこいい」という理由で一度買った。そんな時期が私にもありました。書き心地はあまり印象に残っていない。その後ポピーオイルを拒絶するようになり、既成の調合溶き油も使わなくなってしまったので、未だに使い切らずに棚で眠っている。
ホルベ員の溶き油には、お値段のすこし高い高級シリーズもあり、そこに上位のルソルバンもあるが、試してみる気はあまりない。だいたい、あのシリーズは存在が意味不明だ。誰をターゲットにしているんだろう。専門家や学生は、無頓着な人は油をわりと雑に選んでるし、ガチ系ファイン風な人は自分で調合する。一般の方 も、溶き油で奮発したいと思うだろうか。筆や絵具と比べて、油は直感的には分かりづらいものだから。


「~~風」っていうジャンルもいいな。
「ネオ癒し風」。
これはね、すごい。ねおいやしふー。音にするともう何言ってるかわからない。
Neoiyashihu-。罪悪感

絵具周辺のはなし ストリッパー

ストリッパーとは、乾燥した油絵具を溶かしてしまう剥離剤のこと。
筆についたまま固まった絵具を取ったり、絵のかきなおしをしたい時に使う。白濁したゾル状のもので、画溶液のなかでは見た目も途用もだいぶ特殊。それゆえか普通あまり使われない。

油絵具というのはめちゃめちゃ頑丈であるのだが、その上にぼてっとストリッパーを置いて数十分放置すると、ストリッパーをかけた部分だけ見事につるっと溶ける。これを初めて目撃するとだいぶびびる。

しかし言い換えると大変破壊力がある物なので、筆を傷めるし、絵に使った場合も残留が気になる。目止め層(絵具と麻布を絶縁するために引く膠とかの層ね)まで破壊してしまった場合、絵としての組織が崩れてしまう。さらに燃やせばオゾン層を破壊する、水に流せば魚が死ぬと、マイナー画材にして異常な存在感を醸し出している。

油絵描きなら一度は手に取った事はあるが、決して常用されない。描画材としては使いづらい、そもそもこれに熟達してどうなるんだ、という。

しかし、これは一説だが、ストリッパーが使用された名画がある。マティスの「ルーマニアのブラウス」。

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この、手の部分の白いところは、絵具がそぎ落とされている。これを再現しようと色々試した人が、どうもこれはストリッパーだと思ったらしい。

野獣派とか絶対主義とかの時代は、絵画思想の展開に絵具の技術がついていかなかった(技法の変化が油絵具のキャパを超えてしまっていた)ので、そうとう無茶な描き方もされていた。マレーヴィチの作り上げた無対象性にしても、経年劣化で絵具がはげ落ちてしまうという物質的な面からコンセプトが壊れていく。アクリル絵具が発明されたのは、そういう油絵具では無理のある技法に応えるという意味もあった。

だから、この絵にマティスがストリッパーを使ったというのも、常識から逸脱しているように思えて、ありそうな話ではあるのだった。


何でストリッパーの話かというと、フラスコの内側についた乾性油のカスを掃除するのにあったら便利かな、と、彼の存在を思い出したからです。

未経験(精製的な意味で)の生油に炭酸ナトリウムをぶち込んでひいひい言わせてみた

五月は紫外線が強く、また暑すぎないので、油の季節といえる。
今は下ごしらえ。

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未経験(精製的な意味で)の油をフラスコに移す。こうして入れ物を変えるだけで随分印象が違う。一般的なリンシードよりも随分色が濃い、琥珀色。

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熱湯を注いで栓をし、シェイクする。
卵みたいな色になります。

数時間したら分離してくるが、粘質物などが溶け出していて、見てくれはかなり悪い。

これを三日くらい日光の当たる場所に放置しておくと、水、不純物、油の三層にきれいに分かれる。これを柔らかい容器に移し替えて冷凍庫に入れ、水と不純物を凍らせ、油だけ回収する。
フラスコのまま入れると、中で氷がふくらんで真っ二つに割れるので、注意。

この写真の子は現在、油のみ回収した後ふたたび同じ作業を繰り返し、現在放置中。2度目の不純物は一回目に出た量の一割程度。

その間に、重曹から炭酸ナトリウムを作る実験をしてみる。
重曹(炭酸水素ナトリウム)を加熱すると、270℃で分解し、水と二酸化炭素を放出しながら炭酸ナトリウムになるという。

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無心で火を見つめる。

ところで技法書には、油に対してどの程度量の炭酸ナトリウムが必要かがはっきり書かれてなかった。
けん化価というのは載ってるが、これは水酸化カリウムの必要量をさす物で、炭酸ナトリウムでいうとどのくらいなのか分からない。
なので、とりあえず少量でテストしてみる。

写真では重曹を6g取って火にかけている。アルコールランプでは火力が弱かったのか、なかなか270℃までならなかったが、終わってから重さを量り直したら4gに減っていた。
2gも減るものなのか。
この粉末と、もとの重曹をそれぞれ水溶液にし、リトマス紙につけてみたところ、加熱後の方が若干強く変色したので、まあわりと成功だったのかな。

しかしどっちみち水溶液にして加熱すれば簡単に分解するので、焼くのはやってみたかっただけ。

で、この4gの炭酸ナトリウム(恐らく)が飽和濃度になる水を入れ、熱し、水溶液とだいたい等量のオイルを加えて撹拌する。
ほどなく、底に沈殿物がでてきたり、油面に薄氷のような何かが現れたりする。

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ぴきぴきした何か。つつくと割れる。
もっとじゃんじゃん石けんになるかと思ったら、わりと地味だった。

これをブランフィクスで濾過すれば、澄明な油になるという。

松から生まれた松脂太郎

引っ越ししてはじめて油絵を描いたが、めちゃめちゃ臭い。
既に服にテレピンの臭いが移ってる。慣れるとなんでもないのだが、久しぶりな上に、今日は画面全体にルツーセを塗ったのでけっこう飛んでる。

ルツーセというのは薄めのダンマル樹脂溶液で、乾燥しすぎた下地に手を加えるとき、はじきや艶引きを抑えて作業をしやすくするもの。これによって絵具の食いつきがよくなるのは、多分摩擦係数が大きくなるからだと思う。ひっかからせておいてから、油分が毛細管現象で食いついていく。

ルツーセはかんたんに自作できる(普段からダンマル溶液を使ってる人なら、テレピンで割ればいいだけの話)が、それでも今までほとんど使った事がなかった。某絵具会社の人に「あんなの素人の使うもの」と言われて、それを無批判に受け入れてしまっていた。その他にも、不用意に樹脂を増やす手を打ちたくないというのもあり、どうしても乾燥しすぎの地に加筆する時は、テレピンのみを塗る事にしていた。

ダンマルは石油には溶けないので、ほぼ全てのケースでテレピンに溶かすが、加筆をしやすくなる作用はダンマルだけでなく、テレピンにもある。溶解力の高い溶剤は、乾燥した絵具層の表層をすこし壊す。ちょっと「ふやけさせる」と言える。
なので、油彩用の溶剤で最強の溶解力を持つスパイクラベンダー油を、単独でルツーセとして使う事もできる。(スパイクラベンダーも別の人に『素人の使うもの』と言われたっけか。そして未だに使った事がない。高価というのもあるが)

あと、禁じ手として「水拭き」なんてのもあるかもしれない。これは激しく表面を損傷させる。
でもまずいだろうなあ。

で、普通のルツーセを使ってみた感想は、まあ想像通りというか、ひっつきが良い。ややゆるく溶いた絵具もするする乗り、インパストもしやすい。細かい事を気にしなければ、特に害もないし、まあ、特に感想はないな。


あとそろそろ紫外線の季節なので、オイル晒す準備を始めた。とりあえず湯洗い。日晒しまでに試薬が手に入ったらアルカリ洗浄してみる。でもあんまりオイルを痛めつけるとかわいそうな気もするんだよなあ。
数年前「日晒しのみ」で作ったオイルは非常にいい子に育ち、最近ついに使い切った。最後までけなげな子だった。のびのびさせるのがお互いに幸せなのかもしれない。




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みくしいで「記憶スケッチ」というものをやってみた。お題が出されて、それを資料を見ずに記憶だけで描くという。やってみたらけっこう楽しい。


お題「ライフルの弾」。絶望的に描きづらいマウス。

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お題「onくん」。しらない。

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「猫村さん」。一巻は面白かったなあ。
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「福笑い」。最初福笑いが何だったかド忘れして、「とりあえず笑ってればいいんだろ」と思いながら描いた。なめてる。

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絵の具の話 酢酸ビニル樹脂

酢酸ビニル樹脂は合成樹脂接着剤で、広くは木工用ボンドとして知られている。

絵の具は何でできているか、を簡単に説明すると、接着剤と顔料と添加物が混ざったもの。油絵の場合は乾性油が接着剤で、これを膠にすれば日本画になる。だから日本画の顔料も油で練れば油絵の具になる。昔、ホルベインからそういうシリーズが出ていた気がする。

絵画用の絵の具は非常に厳しいテストをパスしなければならないので、コストがかかり高価格だが、とりあえず絵の具であればいいというのなら簡単に自作することができる。


だからボンドと顔料を混ぜてもそれは絵の具なのだが、これをやる人はほとんどいない。
酢酸ビニルは、絵画への不適合が露見しているからだ。経年変化に耐えられず、酸に弱い顔料を傷める。

私の世代は、人にもよるだろうけど、「酢酸ビニルや塩化ビニルを使ってえらい目にあった」というおじさんたちの話を聞いて育ってるので、ボンドの使用はありえないという先入観が強くある。現在はどこを見てもビニル系などは禁忌と書かれているし、全く使われていない。

しかし、実は酢酸ビニルはかつてアクリルと双璧をなす美術用合成樹脂とされていたようだ。アクリルは段違いの耐久性とカスタマイズが可能な超ハイテク絵具で、よくもまあデータが足りない頃とはいえ並び称されたものだ。でもなにせ大手画材メーカーが支持体の目止めや地塗りに使用してたくらいだから、酢酸ビニルも相当評価されていたのだろうか。しかし、凄い時代だ。

ちなみに、ボンドは木工用接着剤としては優秀である。あまりにポピュラーなのでどこかに上位品があるような気がするものだけど、彫刻やプロダクト系の人間に聞いても「木工はボンドが最強」と判を押している。
本当にうまく接着できた場合、つなぎ合わせた木を壁などに叩きつけると、接着した以外の場所が先に折れるという。

別の長所は、安いことだ。これは供給量が大きいからか?
だから、一ヶ月持てばいい、という程度の絵具を作るなら、ボンドもぜんぜん絵具にはなる。ただ木に塗る用なので、粘稠性などの問題で使いづらいものになるかもしれない。これは実験してみないことには分からないが。



絵の具の話 W&N(ウィンザー&ニュートン)2

絵具の種類は各メーカーから百何十種類も出ている。絵具におけるメーカーの個性を言うにはこれらをある程度以上使わなければならないが、全て使うことは難しい。あまり使わない絵具を買ってしまうと永遠に使い切らないこともある。また、よく似た色調のものをいっぺんに買うのは効率が悪い。

なので、何十種類も買ってから判断する人はあまりいないと思う。分かってきてから種類を増やしていくのが普通だ。
ここでも私が使った範囲でわかることを書いているだけなので、ご了承いただきたい。

どんな作りなのかを大体知りたい時は、基本色を買ってみるのが一般的かと思われる。
特に土色顔料は、安いし比較しやすいと思う。

多くの人が、人生で絵を描き始めてから、あるいは終わるまで、使い続ける色の一つにイエローオーカーがある。これは色調や性質が非常に便利であるからだが、顔料と油の相性もとてもよく、最も優れた油絵の具の一つといえる。

イエローオーカーはメーカーによって色が微妙に違う。これはどこの土を掘っているかによる。だからイエローオーカーは色みでメーカーを選ぶ人も多い。

とりあえず色の違いには目をつぶって使い心地を見ると、薄塗りでもわりかしよく発色し、ある程度のインパストも向いているように思える。半透明色が単独である程度厚く塗れそうなら、多少乱暴な描き方でも弊害は少ないと思う。

シェンナ、アンバー系は厚く塗る絵具ではないが、チューブから出した瞬間は厚塗りも大丈夫な気がしないでもない。しないほうがいいが。これはやはり、体質で増量しているからだろう。のばしたときの発色は、やや穏やか。この具合はどのような技法にとってもほどよいと言える。

ただ不透明色は、顔料が色そのものなので、どうしても比較的鈍く感じる。混色や描画時の便利はいいが、発色を求めるなら上からグレーズしなければならない。グレーズが嫌だという場合は、上層に濃度の高い絵具を使うしかないが、その場合は下層は白色の方がいい。
しかし、これは微妙な差で「致命的に鈍い」わけではないので、その人の技法によって選択は変わってくる。暗い下地にがしがし色を置くような場合は、ニュートンくらいが色調と経済性とでちょうどいいのかもしれない。

まあ、なんだかんだ言って、土色はかなり気に入ってるしよく使う。なかでもローアンバー グリーンシェードはこれにしかない色が出るので重宝する。一般的なローアンバーより緑がかっていて寒く、いわば「彩度が高いグレー」を作りやすい。

もう一つ絵具を出すと、テールベルトが特徴的。テールベルトはオーカー系以上にメーカーによって色が違い、よく観察しているとやがて絵具を見ただけでどのメーカーか分かるようになる。
これは産地だけでない理由がある。本来テールベルトは、絵具にあまり種類がない頃は貴重な緑色だったので、地位が高かった。しかし着色力が弱く、ビリジャンやカドミウム緑が開発されると全く存在感がなくなった。そのままでは使えないので、現在はどこもフタロ系か何かで色を足しているわけ。だからさじ加減でバラバラの色になる。
で、ニュートンのものは、やはり非常に穏やかなもので、主張があんまりない。メーカーとしてのこの顔料の捉え方が象徴的にすら思える。


個人的には、色々な使い方をする土色はニュートンも揃えておきたい、という感じ。彩度の高い透明色、不透明色は使わなくなった。
全体的に、絵具も調合溶き油もチューブ入りメディウムも含めて、ニュートンは「地味にいい仕事する」という印象がすごく強い。女の子で例えれば、そうですね、例えなくていいか。でもきっといい子よ。

絵の具の話 W&N(ウィンザー&ニュートン)

1832年、イギリスにできた画材会社。油絵の具は専門家向けシリーズの「アーチスト・オイルカラー」と廉価品の「ウィントン・オイルカラー」がある。
この会社は名前が長いので、ときどき私もウィントンと略して言う時があるが、シリーズ名になっているのでやや混乱するものかもしれない。「ニュートン」と訳す人も多い。
ここではアーチスト・オイルカラーについて話す。

一般に、画材会社の神髄は絵具製品の質だと思う。メディウムは品質や種類はまあどこも意識しているが、絵具と比べると必要性が下がるし、こだわるなら自分で加工することになっていくから。

あるドイツの町の画材屋は、オイルに限って言うとリンシードの生油とスタンド油しか置いてなかったという。これは客がかなり材料に詳しい層なので、原料だけ最高な物を置いて調合や加工は任せてしまってるらしい。

だから、素人ではとうてい真似できず、技術と思想が詰まっているものとなると、絵具になる。

が、個人的にはニュートンは絵具よりもオイルをよく買う。これは個人的な好みと事情だ。「コールドプレスド」の名前が入ってるオイルはニュートンにしか見ない。またシックンドオイルもここのを使っている。私が自作する場合、なるべく溶剤を使わず、かつ全段階で使えるようにしてるので、粘度の高い油が欲しい時などにこれを使う。が、正直オイルというのはそんなに大量に消費するものではなく、あんまり使い比べたことがないので、厳密な他社との差は分からない。色合いや粘度くらいは外から見ても分かるけど、それ以上のことは使ってみても分かりづらかったりずる。耐久性や黄変しにくさとか。あとは原料のルートをどこに持ってるか、みたいな話になってくる。

ちなみに、たとえばニュートンでいうとリクインみたいな調合製品は別。これは創意工夫されている。ただ、単独品はあまり会社の差や個性というのは出づらいという話。

それで絵具についての概観だが、ニュートンは「使いやすい絵具」のなかでは品質はかなりいいと思う。おおむねどの技法にも使えるので、メーカーをひとつに絞ってやると仮定するとこの絵具が来てもおかしくない。

ただ、それは特徴にとぼしいということでもある。「ここ一番」の仕事のとき、選ばれるタイプではない。まあ、この二つは兼ね揃えることは難しいが。

理由のひとつに、着色力がわりと抑え気味だというのがある。S氏は「体質が多い気がする」と言ってたことがあったが、実際にそうだろうと思われる。チューブから出した絵具はちょっとふわふわしている。体質が多いと、濁りやすい、色が鈍い、効きが弱いというデメリットがあるが、長所としてはコントロールしやすく、比較的安い。「ナイフでも塗れる高級絵具」といったところか。

ここからは私の漠然とした考えだが、イギリスは古典技法への執着があまりなくて、こういう現代の技法に向いたオールマイティな絵具が支配的なのではなかろうか。油絵の歴史上、超有名な絵描きはヴァンダイク、ターナーくらいか、加えるとしたらコンスタブルとかで、時代の主役になることがそんなになかった。ルネサンスがあったイタリア、新古典主義があったフランス、フランドルやバロック時代に輝いたオランダに比べると華やかではないのね。だから油絵の伝統がそこまで重要じゃない。むしろイギリスは水彩や、絵画以外の芸術が強い。
これは結構適当に言ってるから、あまり信じないでほしい。

(つづく)


絵具 絵の具 えのぐ の はなし

検索してここを訪れる人の中では、画材に関するワードでがかなり多い。

これは多分、絵の具に関する情報というのがあまりないので、このブログなんかも引っかかってしまうのだろう。

本屋で美術技法書のコーナーに行くと、並んでいるものはほぼ全て初心者・趣味人向けのもので、専門書は超大型書店でないとあまりない。それでも揃いは悪い方だ。さらに、材料のものとなるとほぼ数冊程度に絞られてしまう。

これは歴史的な問題もあってか、日本ではさほど技法や材料の基本はふまえないことが反映されているのだろう。ヨーロッパでは油絵の具の開発とその後の試行錯誤の様子が文献で山ほどあるので、そちらに興味があるのなら研究はしやすい。

現代アートシーンではこのようなことはあまり重要視されてないし、とりわけ日本は早足で来すぎたので特に関心がうすい。多くの学生は、油の基本的なことを十分に理解しないまま独自の世界に突入したり、別の素材に移ったりする。それはまあ、悪いこととは言わないが、いいことではない。油絵は個人史にとっては足がかりにすぎなかった、というので結構だが、ジャンプ台は強固な方がいい。私が研究室で「演劇の人」と認知されながらも頑に絵を描き続けたのはそういう考えもあり、未熟なまま絵から離れるわけにはいかないと思っていたからだ。最後の最後で折れたけど。

それで話を戻すと、日本で絵の具について深く知りたい場合、組成とかならある程度自力でなんとかなる。が、各メーカー製品の話となると急激に情報が減る。そこまで意識的に使い分ける人が少ないのと、情報の性質上、比較が重要になる。となると、もうネット上の個人ホームページか掲示板くらいしかない。

それでも探せばそれなりにはある。が、所によって話題にしていることが違うので、知りたい情報がないこともある。

だから「ウィンザー&ニュートン社のサンブリーチドオイルがブリーチドオイルに名前変わったけど、これって太陽漂白しなくなったってことですか? だとしたら普通のリファインドとどう違うんですか?」みたいなピンポイントかつ一般的にはどうでもいい疑問は解決しない可能性も高い。

ちなみに私がこれに答えるとしたら、こう言う。ニュートン社は今は「サンシックンド・リンシード」からもサンの字を抜いている。だからデザイン変更かなんかの機会に、長い名前のオイルは表記を省略することにしたのかもしれない。別の可能性としては、シックンドリンシードと併せて、製法を変えている。人口光を使って低コスト生産できるようになったのかもしれない。そうなると「サン」の文字はいれづらい。あとは、もう完全に薬品で漂白するようになった。普通のリファインドよりは濃縮されてるか、少なくともコストの高い方法でやっているはず。最悪の可能性としては乾燥速度しか違わない、だがこれはまあ値段を上げなくてもやれるのでありえないはず。というか、そこまで気になるなら自分で精製するべし。

といった具合に、絵を描く人の中でも99%以上は関係のない話になってくる。が、1%以下の人間はすこし困っている。

絵の具の話になる前に時間切れになってしまった。もう行かなければ。



男流美術話

エル・グレコはもちろん凄いが、当時に「グレコは凄いから、作品をちゃんと保存しとこう」と判断できた奴がいた事の方がさらに凄い、というおはなし。

あと音楽でワーグナーが、宮廷付きのくせに狂気じみた作品を作っていたことが、美術でいえばゴヤにびったし当たる。「あんな王様描いたら殺されるだろ!」みたいな絵があったりする。そう言う点で(フランス革命以前の様式美の世界でやったという意味で)、ゴヤはドラクロワやクールベより偉大っていう。

酒を飲むとそんな話しになる。

ひっさしぶりに絵を描いた

デザイン画を描かなければならないので、三年ぶりくらいに水彩を手に取る。また下書きするので、部屋にあるエスキース帳に空いてるページがないか探した。
昔描いた落書きをたくさん見る。描いた事すら忘れてたものもけっこうあって、もはや懐かしくすらない。まあ楽しいが。


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暴走カタツムリ。カタツムリって氷河期になっても死なないらしいねえ。




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山形浩生さんの顔。むかし大好きだった。最近は読んでないけど。しかし下手だ。高校生の頃のだろうか。




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受験は苦手でした。




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自画像。いつこんなんだったか憶えてない。




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これも憶えてないが、たしかこども絵画教室の子がモデルやったときに描いた。妄想ではない。




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子供その2。まーくん。




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ヘルメスのエスキース。たしか高校の頃。ド下手ではないけどうまくもない。大人でも子供でもない、中学生みたいな気持ち。




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これは構図悪いけど好き。




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ばうー




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アンフェタミン。




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これはあれだな、精神年齢が幼稚園だな。




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咳が永遠に止まるゲバルト棒。




以下、十八禁。



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阿部さんは当時知らなかった。描いた時の事はもう忘れたが、襟の感じからしてジョジョを意識してたと思う。



そして今日描いた、デザイン画。



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なんかあれだね、まあ、水彩は三年ぶりですから、お見せできない仕上がりに……

でも色彩はジブリだよね。ジブリ、俺を雇えよ。

戒め説

今日、ちょっとしたきっかけで北斎の富嶽三十六景・神奈川沖浪裏の図版を見た。
これ

そして予備校にいってた頃、日本画の先生がこの絵について語っていたのを思い出した。
先生いわく、この絵は「戒め」らしい。

神奈川沖浪裏がどのような絵か、というのは、「高波に舟が呑まれる悲劇的な絵」という説と「誇張された表現的な風景であるだけ」という説があるようだ。前者はイギリスの評論家の曲解のようで、あまり評価されてない。晴れているのにここまで波が高まることはないだろう、というのが根拠である。

が、日本画の先生はこの光景は「実際にあったこと」だとし、「富士山が見える日は海に出ちゃいけない」と言った。

空が澄んでいる時は、どのような因果か忘れたが、急に高波になることがあるという。最近の例では、湘南にある某高校のヨット部で遭難があった日、やはり富士がきれいに見えたそうだ。

「この構図に舟はいらないよ、お前も絵描いてるなら分かるだろ? じゃあなんであるんだ? 戒めだよ。富士山が見える日はやばいんだよ」

真偽のほどは不明だが、この人は茅ヶ崎に在住しており、自然の観察力が鋭いので、神奈川の海についてもまあ詳しいのだろう。

だが同時にとてつもない変人であり、ゴッホの絵に対して「パース狂ってやがる」と言い放つほどのぶっ飛び具合だった。(ちなみに私が『それははわざと描いてるんでしょう?』と言うと、『……いや。そうとは限らないかもしれないぞ』とおっしゃられた。これはもう爆笑だった)

そんな先生の作品は、やはり何かの戒めを込めてるか、あるいは、何かいいことをした人の姿が描かれている。いいことをした人の背景には、「エライ!」という意味で富士山が入る。そしていいことをした人はだいたい、自分の子供の成長した未来の姿らしい。もう突っ込みどころ満載なのだが、そんな解説でもなぜか納得させられる。妙に魅力的なのだ。

絵に対する考え方は、さまざまな作家、評論家のものを見聞きしたが、この人のが一番好きで、今後も破られる気配がない。


樹脂の世界?

大学の喫煙所で耳にした会話。
「樹脂の世界って厳しいの?」

それは例えばダンマルちゃんやマスチック君とかがキノコの家に住んでいて、蜂蜜を取るのが仕事、みたいな世界だけど、生意気にしてるとおゆうぎ会で先輩に小道具を隠されて「どうしよう、もうすぐ出番なのにお花がない!」みたいな宝塚的風景もあるものなのかしら。ちなみに話の続きを聞くと、彫刻か立体系の学生らしく、どの素材を専門にするのか、という内容だった。立体で樹脂というとFRPかしら。

樹脂は彫刻に使った事はないが、油彩や木工の仕上げではかなり活躍する。ウレタンを初めて使った時は、本当にツルツルになるのでけっこう感動したりした。だが油彩ではこのような樹脂は使えない。

乾いた油は多孔質で、顕微鏡で見るとスポンジのようになっている。絵の具の固着は、これに上層が食い込むことによって成り立っている。一方樹脂は平滑で、下層に多用すると上層が固着しなくなる。受験絵画が数年で寿命をむかえるのは、乾燥を早くするためにダンマルやアルキドを異常に使うからだ。
(他にはシッカチーフクルトレも直接の原因となる。これは表面的な乾燥を早めるだけの樹脂とは違って、乾性油そのものの乾燥速度を上げてしまう代物だが、言ってみれば覚醒剤みたいなもので、よほどのことがない限り使わない方がいい。)

油彩に使用する樹脂は、比較的艶が穏やかなものが多い。多孔ではないだろうが、表面積は大きいのだろう。特にマスチックは柔らかい上品な光沢ができる。ルーベンスが好んで使ったという。
また、マスチックは元々お香などに使われていて、食べてもおいしいという話も「絵画技術体系」に載っている。が、実際試しに食べてみたらほぼ無味無臭であった。低級品だったのかもしれない。

しかし油彩でも、非常に光沢のある樹脂が使われることもある。コーパルという半化石樹脂だ。普通の現存樹脂は溶剤に溶解させてから、油との混合物にして使う。一方コーパルはそのままでは使えず、ランニング処理ということをして油に反応させ、油と樹脂の化合物にしてから使用する。この処理は大変に手間がかかる上に悪臭を放ち、しかもこの樹脂を使用する層は非常に限られているとあって、メーカーは作りたがらない。日本ではマツダだけだ。
コーパルは大変な強度があり、光沢も絵画用としては異常に平滑なので、なるほど自然物とはいえ無理矢理使える形にした感はある。湿度に強いらしいので、日本向きかもしれない。本来、日本の気候は油絵には向かない。
このコーパルがさらに年月を経て化石化したものが琥珀なのだが、琥珀をワニス化する試みは歴史上多くなされていた。成功したという話もあるが、パラケルススがホムンクルスを作ったという話並みに怪しい。現代では化学的にありえないとされているし、恐らく作れたとしても有用ではないと思う。安定しすぎていると修復ができないから。

そういうことを考えながら油絵を描いていると、樹脂の世界が見えてくる気がする。キノコの家とか。絵描きのなかには、「絵の具や、絵の声が聞こえる」ということを言う人がいる。ある種類の感性をもっていると、そういうのが見聞きできるようになるのだ。この事については、いつか日を改めて書いてみたい。


書を捨てよ、部屋にこもろう

午前、掃除。昼。思い出したように講義に出る。昼下がり、制作。トイレットペーパーに書の模写。これをはじめてから、随分自由に筆が走るようになったが、同時に段々オリジナルの字がいかにすごいかを理解しはじめたので、あいかわらず道は遠いのだった。

夜は油精製のテスト。
炭カル、アルミナで漂白したオイルを濾過したものと、去年のオイル、昨日買ったオイルをサンプル管につめる。(全てW&Nコールドプレスド)
漂白したものは有意な差が見られなかった。なんだい。製品の二者は、ビンに入った状態では明らかに色が違っていたが、小さなサンプル管ではほとんど違いがなかった。これは驚き。底から見ると、去年の方がいくらか澄んでるという程度。
ビンの中では奇麗でも意味がない、という言葉を思い出した。
パレット上、作品上で変化があるかどうかも試していきたい。

本やネット上の情報を頭に入れても、実際やってみないと分からないことも多いし、やることで納得できるものもある。


またシルバーホワイトをマシコットにしてみた。
これは顔料のシルバーホワイトを300℃くらいで加熱しつづけると得られる。明るい黄~ゴールドオーカーに近い色合い。顔料特性は鉛白とあまり変わらないらしい。安定性などに問題があるらしく現在は絵具としては使われてない。
顔料の加工は初めてなので、色が変わっていくのを見ると地味に感動する。

ちなみに、シルバーホワイトは普通に画材屋で買える物の中ではかなり毒性が強いものなので(特に顔料は粉末を吸い込んだりする恐れがあり危険)、取り扱いには慎重を要する。デルナーも「顔料いじるのは危ないからやめときなさい」と書いてる。

カドミウム系顔料は、油中に分散した状態ではきわめて安定度が高いと聞いたことがある。摂取しても体内に吸収されないまま排出されて、たとえ絵具をまるまる一本食っても死ねないらしい。しかし鉛はいままで画家にも中毒者が出てるので、長期的にはおそらく相対的により危険かと思われる。

マシコット

元の顔料と、作ったマシコット。

さらに、マシコットは酸に溶けるというので、少量をお酢と混ぜてみる。

ほんとに溶けた。びびった。

顔料が溶解する瞬間を目撃する絵描きってあんまりいないんじゃないだろうか。
ちょっとお得。

で、作ったものをサンプル管に採って、残りを捨てようとしたとき、鉛化合物の廃棄処理の仕方が分からないことに気づいた。
そこまで危険な物質でもないので、危険物取り扱い指南書にも載ってない。

酸に溶解させても鉛は鉛だしなあ、と思ったが、わざわざ絵具にするのも面倒だし下水に捨ててはお魚がかわいそうなので、一応酢と混ぜてティッシュに染み込ませて燃えるゴミにした。
ビーカーはテレピンでよく拭いてから、洗剤で洗う。
これでいいのか。
何か、ふらっと訪れた理系の人が気軽にコメントするような、そんな学際的なブログになればいいのに。

ふう。毎日楽しい。

昼下がりの塩キャラメルコーヒー

体を育む体育館があるのなら、体を滅ぼす体滅館があってもいい。
アヘン窟か。

薬局を何軒か回って、オイル精製のための試薬の購入を試みる。が、どこも売ってない。調剤薬局にもデパートにも。
まあそりゃそうでしょうねえ、という気もするが。
ある絵画材料サイトでは薬局で買える、と書いてあったのに。うかつに信じて徒労してしまった。
ちゃんとしかるべきところなら買えるのだろうが、探し方が分からない。

似たような苦労を昔した。ウィンナーを手作りしようと思って、羊腸を求めて走り回った。
小金井と国分寺の知ってる肉屋を全部まわり、もしかしたら立川の伊勢丹にならあるかもしれないという情報を手に入れ、みごと購入、羊腸に到達することができたのだった。(ウィンナーは失敗ぎみだった)

食品なら大きなところへ行けばいいが、薬品はもうよく分からないので、通販で買うことにした。
http://www.siyaku.com/
試薬を扱ってるという、おもしろい通販サイト。誰でもIDを取れるわけではないようなので、現在申請中。

購入を予定しているのは、活性白土と水酸化ナトリウム(苛性ソーダというやつ)

最初は、精製は伝統的な方法で湯洗い&サンシックンドを考えていたが、もう二回くらいやったし、ちょっと物足りないので、別な方法を試してみる。

「絵画技術体系」のマックス・デルナーさんは「どうせキャンバス上で黄変するんだから漂白なんてしなくていいんじゃん」と書いていて、漂白に関しては無関心だが、「絵画材料辞典」のゲッテンスとスタウトさんは「そういう風に言う人もいるけど、まあやり方は色々あるよ」みたいなことを書いている。


亜麻仁油の精製には3つの方法がある。(1)濃硫酸を用いる、(2)アルカリ(炭酸ナトリウムまたは苛性ソーダ)を用いる、(3)塩水を用いる。第一の方法は鉛板で内ばりをしたタンクに油を入れ約2%の硫酸を加えて撹拌する。酸のためにアルブミンと炭水化物は脱色されて凝固し、沈殿するから、きれいになった油を取り出して水洗いした上で水分を除く。この方法によって漂白した油の酸価は、未精製の油の酸価より高い。この種の油は遊離脂肪酸が湿りを助ける性質をもつため、特定種の顔料を練るのに用いる。第二の方法は油を炭酸ナトリウムまたは苛性ソーダの熱い水溶液とともにかき混ぜる。アルカリの作用で石けんができ、アルブミンや炭水化物が凝固沈殿するので、きれいになった油は洗ってフラー土を用いて濾過する。アルカリを用いるだけで遊離酸は十分中和され、遊離脂肪酸の残量は0,3%から0,5%になる。このアルカリ法は一番高価につくが、最も優れた澄明さと色味が出る。第三の方法は濃い塩水を入れたタンクに油を入れ、粗硫酸アルミニウムの10%溶液または硫酸の10%液を加えて加熱すると沈殿を生じる。

「絵画材料辞典」の「油:精製」の項より



第一の方法では、鉛のタンクを用意する時点で大変なうえ、遊離脂肪酸が多い。これはエステル化してない脂肪酸のことですよね? としたら多分脱水されてないということで、だから顔料の湿りがいいということですよね? 理系?

推測だけど、汎用性が下がりそうな気がするのでパス。

第三の方法。試薬サイトに登録までするのに、塩水なんかで洗ったらつまらん。

というわけで、知的好奇心をそそり、かつ一番優秀とされるアルカリ法をやってみようと思う。
ちなみにフラー土とは、酸性白土のことだと思う。これを酸処理すると活性白土になるという。おなじようなもので、どっちみち脱色に使うつもりだったのでちょうどいい。


で、申請が通るまでの間、手持ちのもので脱色効果があると言われている顔料でちょっとテストをしてみようと思った。
漂白するよ

オイルはウィンザー&ニュートンのコールドプレスドリンシードオイル。新宿の世界堂で冷や打ちオイルを置いているのはウィントンだけなので。一年くらい放置していたものだが、油は放置する分にはいいらしい。
顔料は沈降性炭酸カルシウムと、アルミナホワイトを用意。よく洗った砂とかガラス粉でも効果があるんだってさ。

きばみ

たれたオイルを拭く。かなり黄ばみがきつい。
この油は工業的に精製されてない、未加工の一番搾りオイルで、そのまま使うことは多分想定されてない(へたな精製リンシードを買うよりはこれをそのまま使うことを推奨している人たちもいるが)。自分で一から加工したい人むけのものだと思う。

maze.gif

炭カルと油をぐちゃぐちゃ混ぜる。ワイングラスなのは気持ちおしゃれ。
アルミナは毒性があるので、空き瓶に割り箸でまぜる。マスクと手袋をつけて、粉が飛び散らないようにしよう。

raberu.gif

ラップしてラベルを貼り、三日ほど放置する。粉が沈んで上澄みが取れる。

いやあ楽しい。何と楽しい作業。油かわいい。


以下はどうでもいい話だが、実家に佐々木倫子の漫画「動物のお医者さん」があり、帰るたびに何となく読んでしまう。
これは獣医学部の学生たちの日常を描いた動物コメディなのだが、そのヒロイン(?)の菱沼さんという、公衆衛生学科で血液や細菌の研究をしている人がいる。

この菱沼さんは大変な変人だが(佐々木倫子は変な女を描くのがすごくうまい)、血液関係の仕事に就職する際、企業の人に「血に対する思いは誰にも負けません」みたいな事を言って内定をもぎ取る。

変な人だなあ、と思って読んでいたが、油が好きな私も似たようなもんだと思うようになった。

ねるこはそだつ

軽く油抜きしたシルバーホワイトに、抜けた分くらいのサンシックンドリンシードと少量のアルキド樹脂を混ぜ、ビニールをかぶせて一週間くらい寝かせておいた。(使いそびれたまま一週間経ったのだった。)

油絵具にメディウムを足すということは、絵具の時点で取れていたあるバランスを崩すということだ。だから、溶き油でゆるめるならともかく、絵具の体を保った状態で混ぜ物を入れると、物質としてちょっと気持ち悪くなる。

アルキド系速乾剤を入れたらブヨブヨテカテカして、やだなー、という思いは、よくしていた。

(しかしこれは、受験などの無茶な乾燥速度を求めて速乾剤を入れすぎるのにも原因がある。あるジェル状アルキド製品は、確実な効果を得るために油絵具に対して同量か、それ以上混ぜることを推奨している。これはとてつもない処方で、日本酒と水を一対一で割るようなものだ。樹脂は本来大量に使うものではない)

このシルバーホワイトに入れたアルキドは、絵具に対して5%くらいだったが、それでも練り込むと独特のヌラっとした感じが出てしまった。

しかし一週間経ってみると、絵具はしっとりとした品の良さを取り戻していた。

ラップなどを被せたまま放置した絵具が、特に粘りに変化をきたすことはよくあるが、絵具の質感が目にみえて変わるというのは初めてだ。アルキドがついた筆やパレットはすぐにかぴかぴになるので、その場で必要な分だけ作り、使い切ってしまうのが普通だ。作り置きしないから、こういう状況が今までなく、見落としていたんだろう。

多分、一週間の間に油や顔料、樹脂が新たなバランスでなじんだのだと思う。
油抜きすると、粘度を調整するためのロウorステアリン酸なども抜けてしまうので、直感より多くのものが出たり入ったりしてるわけだ。それらがふたたび調和しあうのに、時間をかけ直さなければならなかったのだろうな。
「絵具の科学」(ホルベイン工業技術部編)にも、絵具の熟成はなじみを促進させることに他ならないと書いてある。

油絵具は、油や顔料その他をしっかり練り合わせてから、半月~半年間寝かせて熟成させる。
これは絵具の中に混ざった空気を抜くことが目的だが、今調べ直したらなじみの問題もあるそうだ。
熟成の雰囲気はウィスキーと同じようなものらしい。ほんまかいな。

まあ、アルキドを混ぜてもしっかりした絵具になるのが分かったのはいいことだ。アルキドは大変に強度も高く、使い勝手もいいスーパーな材料で、うまく使えるにこしたことはない。


余談 トイレットペーパーに草書を書いたら、とても書きやすかった。吸収性や筆の滑りが草書に向いている気がする。今まで上手くいかなかったのは筆が悪いのか、腕が悪いのかと悩んでいたが、紙が一番悪かった。先日半紙を切らしてしまい、世界堂で唯一売ってる「吉野」を今使っているが、これ楷書以外はやめたほうがいいな。しかし、尻を拭く紙に雅な和歌が書かれているのは見てて笑える。

その人にとって最高のメーカーとは何だろう

初~中級者は、国産メーカーを使いながらW&Nを仰ぎ見る傾向があるようだ。
ニュートンはちょっと広い画材屋なら売っているし、お値段や存在感がそんな感じなのだろうな。

色が奇麗で体質顔料が多めで使いよく、色もいいオールマイティさという特徴が感覚的に「国産とは違う絵具」、っていうかワンランク上という印象を与えるのだろう。

玄人の人たちは大体シュミンケを褒める。戦後の一時期品質が下がったようだが、取り戻すよう努力していた。今はどうかは知らない。
シュミンケ、ムッシーニはとても高価なので手が出しづらい。

私がメインで使ってるのはターレンス・レンブラント絵具と、マイメリピューロ。
これは高顔料絵具、絵具の中の顔料の比率が高い作りになっていて、とにかく色が強い。だから、キャンバス上ないしパレット場での混色で、うまく目指す色を作るのが難しいかもしれない。だから多分、多くの人はこういう絵具には慣れておらず、使いづらいと感じるだろう。

(数ある外国製メーカーのなかで、W&Nが知名度で飛び抜けているのは、汎用性の高さにあるのではないだろうか)

そもそも、これらはグレーズに特化されたきらいがあり、現代的なインパストには向かない。

誰にとって、何のメーカーがいいのか。
趣味で描くなら、普通にホルベインやクサカベでいいだろう。日本の画材の顧客の8割は趣味のおじちゃんおばちゃんなので、使いやすくどんな技法でもそれなりの効果があり、支障ないようオールマイティなように出来ている。
古典技法を継承するなら、マイメリ、レンブラント。国産ならミノー。
クサカベの謎のプライド、ギルドシリーズを使ってみるのもいいだろう。
金があればブロックスやシュミンケ。
マニアはルーカスなどを入手してもいいんだろう。

ただ、あなたは何を描きたくて、そのためにどのような絵具を必要としているのか。
それが大前提でありつづける。
何をしたいかすら分かってない人は、それが見えてくるまでは切磋琢磨したらいい。その時の絵具は、安いものでもいいと思う。
何かが見えてきて、筆や材料の性能に限界を、「もっとこれがこうならあれがきっとかきあらわせるのに」といったことを感じたら、それに応えるものを探すといい。


でも個人的には、メーカー細かいことまで気になってしまう。
リンシードで練ってるって言うけど、どこ産のリンシード? それは低音圧搾or高温圧搾?(これとても重要)どうやって漂白したの?  それともまさかしてない?

という。考えれば考えるほど究極の結論、絵具の自作というところに戻ってくる。

だから例えば、超奮発して赤口朱とかを顔料で買ったら、ちゃんとした組成で練り上げてみたい。
メーカーが避けてる、マジの硫化水銀の絵具。

ちょっと話がマニアックになってきたので終わろうと思う。

オイル晒さねば。

絵具のメーカーによる処方の差

マツダとホルベインの油絵具は混ぜられない、という話を耳に挟んだ。確かな情報源でないからわからんけど。(クサカベとウィンザーニュートンもいまいちらしい)

多分、併用不可能だということは無いかと思われる。せいぜい考えなしに混ぜ合わせると目指したい処方からズレる、くらいの話で、極端に寿命が縮んだり破損したりすることは考えにくい。
油彩用の油、樹脂、助剤には、組み合わせとして禁忌のものはほとんどない。だからよほど特殊な材料を使わない限り、他メーカーと混ぜ合わせられない油絵具は作れない。そして、多分それは「普通の油絵の具ではない」。
そういう普通じゃないものは、油絵の具とは別なシリーズにちゃんと分かれている。例えばクサカベのアキーラとかホルベインのデュオとか。
だから、最初に述べた情報はガセだと思う。

でもちょっち気になるので、テストを作ってみた。紙パレットの上に、併用不可能とされるメーカー同士の絵具やアルキド系メディウムを混ぜ、観察してみる。

絵具たちは思想的な喧嘩はしたが、物質的な不和はおこさなかった。
ま、経験的に分かりきってることだが。
有意な結果が出るのは10年以上経ってからだろう。


「混ぜても支障はない」と書いてきたが、混ぜるときは注意が必要ではある。
最初の方に書いたように「目指したい処方からズレる」からだ。
絵具はメーカーによって、技術だけではなく、想定している技法や込められた思想が異なっている。
それらを軽視してはいけない。第一それが気にならないなら、メーカーを選ぶ意味なんてない。

一番分かりやすいのは、マツダ・スーパーだろうか。
このシリーズは、全色がポピーオイルで練られている。
乾性油はどのような油脂が含まれてるかで性能が違う。リノレン酸が多く含まれるリンシードオイルは乾燥が早く、堅牢だが、やや黄色い上に経年変化で油やけする。リノール酸が多く含まれるポピーオイルは色はきれいだが、脆い。他にも乾性油はいくつかあるが、全てリノレン酸かリノール酸の量で乾性油としての性質がほぼ決定する。

マツダ・スーパーは優秀な顔料を使用し、それらの発色を損ねないようにポピーで練っているわけだ。牛島憲之が愛用したといわれる。

しかし、ポピーの耐久性は信頼に足らないという報告もある。


一部の人(例えばアイブナー)はけし油の使用には色々な欠陥があり、特に乾燥が悪いといって賛成をしない。リノール酸の含有量が多い(ヨウ素価は150前後である)から、けし油の薄層は乾燥はするが、リノレン酸が含まれてないかもしくはほんのわずかしか存在しないために、できた皮膜は約100℃で溶解し、亜麻仁油の皮膜よりずっと軟らかく、またエーテルにも溶解し易い。

ゲッテンス、スタウト共著「絵画材料辞典」P.52



また、某メーカー技術部の方からうかがった話では、リンシードもポピーも最終的には同じくらい黄変するという。恐らく、10~20年のスパンではポピーは持ちこたえるのだろう。

(彼はだからポピーを使うメリットはないと言うが、ほとんど全ての人にとって、実際問題100年後に自分の作品がどうなってるかなど意味がない話だ、というのはある。だから意味のある時間間隔では黄変ペースが遅いことはポピーの長所と言っていいかもしれない)

しかしこの技術部の方の言葉にも、他社を低く言うバイアスがかかってた可能性も大いにある。マツダだって馬鹿ではないし、ポピー使用を決断するまでに十分なテストと思考は経過したはず。
全部込みで考えて、物性の不具合なく、かつ顔料固有の色彩を損ねない絵具としてこのシリーズを作ったのだ。

ここに書いたことだけでも、高級絵具は単に「品質がいい」という漠然とした尺度で考えることはできないことが分かるだろう。

マツダ・スーパーをリンシードで溶いてばしゃばしゃ描くのは意味がない。

良い材料は、使うと栄えて見えるということはなく、使い手の知識と技術がちゃんと反映される、という意味で優秀なのである。(これは油絵具に限らず、なんにでも言えると思う)
プロフィール

金城孝祐

Author:金城孝祐
劇団無敵の作・演出家。油絵も描いてる。

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